「イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む」石原心

 イップス。
 聞いたことのある方もおられるかと思います。
 何を隠そう私もイップスに悩まされたひとりです。
 といいますか、恥ずかしながら本書を読んで初めて自分がイップスだったことを確信しました。
 ゴルフ、野球、テニス、卓球などボールを扱う競技の選手に多い謎の症状。
 イップスとは、何も考えずに当たり前にできていたスポーツ中の動作、たとえば野球のピッチャーが一塁に牽制球を投げる動作、ゴルフのグリーン上でパターを打つ動作、テニスや卓球のサーブ、これらが突然できなくなってしまう症状のことです。
 全力を使った運動ではなく、細かい筋を使うコントロールの必要な動作に伴って出現します。
 もちろん、身体の機能に異常や不調はありません。
 レントゲンやエコーにも何もうつりません。
 研究者の間で未だ疑問点が多く、原因や治療法も進んでいません。
 外国の論文によれば、ゴルファーの28%がイップス経験者だという説もあります。
 ずっと「メンタルが弱いから」と精神面のせいにされてきた、この謎の症状を、自らもイップスだったという著者ができるだけ解明し、治療法まで紹介したのが、本書です。まさに、画期的だと思います。

 高校球児で投手だった著者は、微妙な距離への送球ができなくなりました。
 捕手への投球は普通にできるのです。一塁線のバント処理をしたとき、投げることができないため、自ら一塁へ走りファーストに下手投げでトスしたそうです。大事にアウトを取りに行ったと解説されたそうですが、実は本人は投げることができなったのです。このような経験があり、早稲田大学のスポーツ科学部第一期生となった著者は、イップスを研究することになりました。
 イップスという言葉の由来は、「小刻みな震えや硬直の症状が起こり、その症状が、まるで仔犬の鳴き声(YIPS)のようだ」と名付けられたのが始まりといわれています。
 よくある例では
 野球・わずかな距離の送球なのに、ボールを地面に叩きつけて投げてしまう。
     急に動きがぎこちなくなり、簡単な打球処理なのにエラーしてしまう。
 ゴルフ・身体が縮こまって、いつもとおりのスイングができなくなってしまう。
      非常に簡単なパターなのに、極端に強く、あるいは弱くうってしまう。
 などがあり、使用するボールが小さいほど、発生確率が増えます。
 野球のほうがソフトボールよりも多く、ハンドボールでは例がありません。
 イップスは突然起こります。しかし、それにはきっかけがあります。
 目の前の状況を、「絶対に失敗してはいけない」と認識することで起きることが多いのです。
 一度起これば、脳の経験則に組み込まれるために、また起こります。不安が不安を生んでしまうのです。
 イップスは、不安症の一種です。
 経験あるスポーツ選手が当たり前にできていた一連の動作、パッケージ化(自動化)されて無意識のうちにできていた動作が、緊張などの不安を感じすぎたことにより、脳が過剰に運動調節をしてしまうことがイップスの正体です。
 無意識でできていたのに、緊張のために意識的な運動調節が入ることで脳がパニックになってしまうのです。
 例えるならば、いきなり動画をブツブツ切ってコマ送りにしたような状態とでもいえますか。
 思い当たる方も多いのではないでしょうか。
 逆に経験したことない方は、何のことなのかさっぱりわからないでしょうね。
 人前で字を書くときに震えが止まらなくなる「書痙」という症状も、イップスと関連づけることができるそうです。

 さて、治療法。
 脳を起因とする不安症なので、脳を安心させてやる、脳の意識を他にやることでイップスを発生させないようにします。
 ネタバレなので詳述できませんが、声を出す、口角を上げる、重いボールを使うなど方法があります。
 興味ある方は読んでみてください。



 
 
 
 
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「不発弾」相場英雄

 あれから20数年。
 水面下で膨らみ続けてきたバブル期の負債が、ついに爆発する!?
 社長から社長へと密かに受け継がれきた“不発弾”の行く末・・・
 戦慄の金融ミステリー( ゚д゚ )彡
 
 ちなみに、読めばわかりますが、三田電機は東芝、ゼウスはオリンパス、ノアレはヤクルトがモデルです。
 内外情報通信社の相楽は、実在した闇のフィクサー・石原さん(「黒幕 巨大企業とマスコミがすがった裏社会の案内人」伊藤博敏)がモデルで間違いないかと思います。
 東芝やオリンパスはともかく、ヤクルトは生々しかったですわ。
 覚えている方もいるかもしれませんが、堅実経営で借金がなかった会社が、バブルで財テクに狂い、確か大蔵省から天下った金融のプロが1千億円もシコって(損して)しまったのは厳然たるノンフィクションですからね。
 ああ、こういう感じで相場での負けが認められずに、どんどん雪だるま式に負債が積もっていったんだろうなと。
 博打は負けを認めた瞬間に地獄に落ちる、ならば負けを認めず続けたらいい。
 いやあ、怖いね。
 最後の方は、ここでも書かれていますけども、自分が何をしているのかわからなかったんじゃないですか。
 でもまあ、ヤクルトはまだましですよ。
 思い切って清算して、「こんだけ損しました。すみません」ってそのときは地獄だけれども、立ち直れたじゃないですか。
 もちろん、あの頃は潰れた会社や銀行が続出しました。
 問題は、負けを認められずに損失をひた隠して、何かの拍子に爆発して周囲に多大な迷惑をかける巨大な不発弾を抱えたまま、現在に至っている会社です。どうしてこんなことがあり得たのか? 本作の肝はそこでしょうね。
 ごまかせるものは、ごまかそうという風土。
 クール・ジャパンなどと偉そうなこといっても、この国は一面でそういう風土も持っているのですよ。
 私が社長のあいだにこんな恥をさらせられない、私が財務責任者のうちは表に出せるわけない、先へ先へと順送りした不発弾の行方は・・・

 物語の進行ですが、視点はふたりいます。
 ひとりは、ナンバーシリーズに登場した、警視庁捜査二課第三知能犯捜査係統括管理官の小堀秀明。
 34歳のキャリア警察官です。彼のミスにより、ナンバーシリーズの第三知能犯捜査係はいったん解散したこともありました。彼が二課にきて2年半と書かれているので、「リバース」からしばらく経ったころでしょうか。
 ナンバーシリーズの主人公だった西澤はでてきません。今井春彦巡査部長と島本という元SITのベテラン女性警察官が出てきますが、私の記憶にはありません。いたかな? まあ、シリーズは関係ないですけどね。
 小堀は、三田電機(東芝)の不適切会計を巡る騒動を見て「何かがおかしい」と思い、立件すべく捜査を開始します。
 普通ならば上場廃止されるはずの粉飾決算なのに、どうしてそういう声が上がらないのかと。
 その過程で浮かび上がったのが、もうひとりの主人公である金融コンサルタントの古賀遼こと古賀良樹。
 九州の寂れた炭鉱町出身である彼は、幼い頃に父を落盤事故で亡くし、自堕落な母親の元を離れ、妹を呼び寄せるべく東京の証券会社に就職して懸命に働いていました。しかし、母に売春を唆されるなど劣悪な環境に耐えられず妹は自殺してしまいます。憤怒に燃えた古賀ですが、やがてバブル期に入り、豊富な経験と人脈も得て業界で成功します。
 そして先見の明のあった彼は、バブル崩壊をいち早く感じ取り、落ち込む証券業界を逆手にとって、金融コンサルタントとして独立し、似合わぬ財テクですっかり財務が傷んでしまった企業を相手に“債務掃除人”というべき金融界の闇の住人として君臨していくのです。その手法は・・・

 今だと時価総額とかよく聞きますけど、あの頃は日本は時価会計ではありませんでした。
 株を100億円で買って、値段が下がって50億円になって50億円の含み損を抱えても、帳面では買ったときの100億円の有価証券のまま仕分けすることができたのです。
 もちろん、帳面ではそれでも調べればすぐわかりますから、財務責任者は「どうしたもんかいの」と悩みます。
 損は損だからね。いずれバレる。
 そこで、これに目をつけた外資が、その負債を飛ばす方法を有価証券評価損を抱えた企業に伝授したのです。
 私は頭が悪いのでよくわかりませんが、その損をしている口座をそっくり外資の口座に移し、新しいファンド(仕組債)の中に組み込んでわからなくしてしまうのです。例えるならば、腐ったネギでも鍋料理に入れてしまえば目立たず食えてしまったみたいな。
 運用損単体ではすぐわかりますが、複雑なデリバティブ商品、金融派生商品に紛れ込ませることによって、発覚を遅らせることができるということではないでしょうか。
 それでもいずれ破裂する、ならば、企業買収に巻き込んでしまうというのもアリですか。
 本来ならば500億円の価値しかない企業を、運用損50億円を紛れ込ませて550億円で買えばいいのです。
 これも調べればバレますが、調べなくちゃわからないでしょう。表面上は。
 今朝の新聞にオリンパスのことが載ってましたが、似たようなことをしていたんじゃないですかね。
 バブルが弾けて20年以上経ちますが、いまだに日本のどこかで不発弾に怯えながら余生を送っている方がたくさんいらっしゃるのかもしれません。爆発させていたほうが、後腐れなくてよかったんじゃないですか?
 タイムリーな本でした。面白かったです。


 
 
 

「航空母艦『赤城』『加賀』」大内建二

 日本海軍機動部隊の主力であった第1航空戦隊大型空母「赤城」「加賀」。
 大艦巨砲主義からの転換を象徴した両艦の設計構造、繰り返された改造の内容、装備の変遷、艦載機の種類、そして1942年6月5日ミッドウェー島のはるか沖に沈むまでのあまりにも短かった戦歴などが紹介されています。
 
 「赤城」「加賀」が生まれることになった当時の背景なども詳述されていましてね。
 こちらのほうの著者の入れ込み具合が、両艦の戦歴の紹介より大きいかも。
 知らなかったんですが、世界で最初に実戦に投入された航空母艦は日本海軍のものなんですって。
 水上機母艦「若宮」が、4機の水上機を搭載して青島攻略作戦(1914・11~12)に参加したのが世界初だそうです。
 4機の水上機は、合計で49回出撃し、敵陣地偵察や小型爆弾による攻撃を行ったそうです。
 すごいですよね、日本海軍の実行力は。航空機の実用性にいち早く着目していたということです。
 さらに、海軍は世界最初の全通飛行甲板を備えた航空母艦「鳳翔」を1922年(大正11)に完成させます。
 この頃はアメリカやイギリスも航空母艦という新しい艦種を研究、建造に着手していましたが、同じように日本海軍も遅れをとるどころか世界のトップを走っていたのです。
 しかし、時代の趨勢はいまだ大艦巨砲主義にどっぷりひたっていました。
 所詮、航空母艦などまだまだ海のものとも山のものと知れぬ、想定外の実験戦力だったと言っていいでしょう。
 八八艦隊。海軍は、戦艦8隻巡洋戦艦8隻からなる重厚な攻撃部隊の設立を計画していました。
 ところが、軍事費の増大に悲鳴をあげた世界各国は一転軍縮に転じます、これがワシントン条約ですね。
 この条約のおかげで、八八艦隊構想は露と消え去り、建造中であった戦艦と巡洋戦艦から空母に転用されたのが、「加賀」と「赤城」でした。「加賀」は41センチ砲10門を備える予定だった戦艦「加賀」級から、「赤城」は同じく41センチ砲10門を備え30ノットの高速を誇る巡洋戦艦「天城」型から、航空母艦へ変身することになったのです。

 なんと空母になった当初は、両艦とも飛行甲板が三段式でした。昭和2~3年に両艦が完成したときのことです。
 一番上が着艦用で、二段目と三段目は攻撃機と戦闘機の発艦用だったのです。
 びっくりですね。当時の試行錯誤というか、まだ航空母艦はこれという決まった形がないのですから。
 結局、搭載される航空機の性能が上がって重量が増しますから、多段式の甲板は一段式に改められたわけですが・・・
 巡洋艦並の20センチ砲も装備されていました。これは沈むまでずっとありました。
 実際、空母が20センチ砲をぶっ放すことがあるでしょうか? 重量の損にしかならんと思うんですが。
 本書の興味というか読みどころは、空母という艦種の黎明期の試行錯誤と、実戦に通用するべく改造につぐ改造を重ねた「赤城」と「加賀」の変遷にあると思います。
 赤城の甲板には傾斜があって、その理由ははっきりしたことがわからないなんて書かれてあるのを読むと、俄然興味が湧きますよね。中央部分が1~2度盛り上がっていたんです。おそらく着艦後の滑走スピードを和らげるためと、発艦の滑走スピードを助けるためだと思われるのですが、それならなぜ他の空母には採用されなかったのでしょうかね。
 それと、イギリスの空母のスタイルを真似たためらしいのですが、格納庫が密閉式なのですね。
 ちなみにアメリカは開放式の格納庫です。飛行甲板の下にありあすからね、格納庫は。
 格納庫が密閉式であると、飛行甲板に爆弾が落ちて甲板が破られて格納庫で爆発すると、もろ全滅するわけです。
 開放式だと爆風が逃げて減殺されるのですが、密閉式だと威力がすべて船内で破裂してしまう。
 ですから飛行甲板は装甲甲板でなければいけないのですが、日本の空母は当初は装甲がありませんでした。
 このために、ミッドウェーでアメリカの爆撃機に実力以上にやられてしまったらしいのです。
 零戦もそうですが、防御の弱さというか匹夫の勇というか、結局、日本の軍部が戦争に負けたのは自業自得ですね。
 はじめの目のつけどころはいいのです。「鳳翔」だって建造できたわけだし。頭は固くない。
 あとがいかんわ。おそらく貧乏性なのかもしれませんね、資源がないから。

 「赤城」と「加賀」の戦歴は、我々の知っている通りです。太平洋戦争開戦から1年もたずに沈んだわけですから。
 強いて言うなら、「加賀」のほうが日支事変に参戦しているぶん戦功があります。
 あと、本書を読むまで気に留めてなかったのですが、歴代艦長のところでおっと思ったのは、赤城の最後の艦長である青木泰二朗大佐。彼はミッドウェーで沈んだ空母の艦長ではただひとり生き残った人物だったのですが、そのことが内地で責められ、辞職に追いやられたそうです。おいおい、と思う。強いて言うなら悪いのは南雲のハゲと戦闘機バカの源田だろうが。
 生き残ることだって勇気がなきゃできないんだよ。
 こんなんだから、上にアホしか残らないのですね。


 
 
 
 

「日本古代史を科学する」中田力

 著者は脳神経外科医で複雑系脳科学の世界的権威(自称)。
 自然科学者の視点から、非論理的な結論が長年定説とされてきた日本の歴史に考察を加え、邪馬台国はどこにあったのかという日本史最大のミステリーから、記紀(古事記と日本書紀)に記載された神話の謎解きまで、独自の日本創生の見解を示したのが本書です。

 これが新書ですからねえ、うーん。自費出版みたいな内容だけど。
 でも8刷だってよ、めっちゃ売れてる(初版2012年)。
 私的には邪馬台国よりも、本書が8刷売れているほうがよほどミステリーですわ。
 まあ、私もそのうちのひとりか(笑)
 騙されたなあ。こんな読みにくい本はありませんわ。
 ただただ、読みにくくて理解がしにくい。納得がいきにくい。
 結論からいうと、邪馬台国は日向灘に面した宮崎県にあったということ、中国の上海らへんにあった周王朝の末裔が縄文人を駆逐して大和朝廷を建国したことなどが書かれています。
 これだけだと別にいいんですけどね。
 著者は魏志倭人伝に記されている国と国との距離「里」を、現在の中国で適用されている1里=500メートルではなく、1里=60メートルで計算し、グーグルアースを駆使して中国の官吏が通った道を模索しました。
 その結果、伊都国、奴国、不弥国が佐賀平野にあったことを推定し、不弥国から水行20日の投馬国を熊本、投馬国から水行10日陸行1月で行ける邪馬台国を、宮崎平野にあったと断定しています。
 いいんじゃない。本当に宮崎かもしれないし。吉野ヶ里遺跡は佐賀だしね。
 卑弥呼の墓が前方後円墳であると決めつけた日本考古学の論理はおかしい、九州に墓がないからといって邪馬台国が九州にないとは言い切れないという著者の意見もまたその通りですよ。
 まあ、私は畿内に違いないと今でも思っていますけどね。ヤマタイ=ヤマトいう名前だけでもう決まりみたいな。
 言うだけは自由。邪馬台国は宮崎かもしれないし徳島かもしれないし、岩手かもしれません。
 ただね。著者が説明することころの、水行の1日が3キロメートルくらいしか進まないのはおかしいと思います。
 いくら倭舟がボロでも、1日かかって3キロしか進まないってどんな舟なのよ。
 それだったら、面倒くさくても歩いていきませんか? 佐賀から熊本までなんですから。
 それはおかしいよ。はじめから宮崎あたりを落とし所として想定していたとしか思えませんね。
 日本の考古学が、非科学的でバカばかりというのは当たっていると思いますけども。

 あと日本民族のルーツといいますか、解釈ね。
 著者いわくY染色体ハプロタイプ解析によると、日本人はモンゴル人や中国人にはまったく見られないチベット系と似たDNAを持っているそうです。これは、上海あたりで隆盛し紀元前473年に滅亡した姫姓の呉という国(周王朝の末裔)が難を逃れて日本にやってきて、それが弥生時代の幕開けとなったと著者は説明しています。
 まあ、何かはきただろうね。それが弥生時代の幕開けがどうかは知りませんが、縄文人と弥生人は顔が違います。
 私なんかは、もろのっぺりとした弥生顔なので先祖は大陸かもしれない。まあ、いいですよ。朝鮮も支那も嫌いだけど。
 ただね、邪馬台国の起源は迫害を逃れた徐福の渡来であるという説は、いささか冒険にすぎるのではないかと思います。
 出雲は姫姓の呉の次に滅亡した越という国の難民が建てたみたいなことも書いてたな。
 そんなに王朝が滅亡するたびに日本にやってきませんよ、海だってあるんだから。
 だいたい彼らが国を作ったならば、文書を残しているはずだと思います。
 それに、邪馬台国を構成した人物がヒミコとかイトとかみたいな名前にはなっていませんよ。
 蛮族と差別されて卑しい漢字(奴国、卑弥呼など)を使われたら、プライドが許さないと思いますし。
 もちろん、かなりの数が渡来してきているのは間違いないですがね。
 大陸と縁を切って日本人に成り切っても、なんの文書も残していないのというのはやはりおかしい。
 政権の中枢には縄文人かどうかはともかくとして、純粋な日本人がいたのだと思います。

 つまるところ、あとがきで書いてらっしゃる「意味のない権威主義から解放された正しい歴史感」という意味がまったくわからない私にとって、本書は次元が違っていたのかもしれませんねえ。もろ権威臭を感じさせる本でした。


 
 
 
 
 
 

「コンビニ人間」村田沙耶香

 「ピークが落ち着いたら、冷たい飲み物の補充をしてあげてください。アイスも、暑くなってきたらさっぱりした棒アイスのほうが売れるので、売り場を直してあげるといいですね。それと、雑貨の棚が少し埃っぽいですね。一度、商品を下げて棚清掃を行ってください」私にはコンビニの「声」が聞こえて止まらなかった。
 「それと、自動ドアにちょっと指紋がたくさんついてしまってますね。目立つところなのでそこも清掃してあげてください。あと、女性客が多いので、春雨スープがもっと種類があるといいですね。店長に伝えておいてください。それと・・・」


 第155回(平成28年度上半期)芥川賞受賞作です。
 細胞全部がコンビニのために存在している“コンビニ人間”のような女性のお話。
 彼女は、子供の頃から、かなり変わっていました。
 普通の感覚からは、かなりずれていたのです。
 両親から「治さなくちゃならない」と聞いていながら、自分では何を直したら普通の人間になれるのかわかりませんでした。
 そしてそのまま、彼女は大学1年生のときにオープンしたコンビニでアルバイトを始めて、18年も経ってしまいました。
 恋愛もせず処女のまま、両親や妹が心配するなか就職活動もしないでずっとコンビニ店員として働き、朝も昼も夜も勤めるコンビニの期限切れ間近のパンや弁当を買って食べ、たまには「餌」と称する鍋で煮ただけの野菜と白飯を食べ、六畳半のアパートに敷きっぱなしの布団で寝るという生活を、変化のないまま18年も続け、彼女は36歳になっていました。
 その間に店長は8人も変わりました。もちろん、アルバイトでずっと続いているのは彼女だけです。
 普通の人間になれない彼女にとって、コンビニのマニュアルは完璧でした。
 なぜなら、その通りにしてさえいれば、どうやら社会に適応できない自分を出さなくていいまま、コンビニの店員という立場を演じられるからです。コンビニで働いている間、彼女は別の人間になれるのです。しかも仕事は完璧です。
 しかし、人手不足から彼女以上に変人であるひとりの男性アルバイト店員が雇用されたことにより、彼女のコップの中の平穏は乱されてしまうのです・・・

 映画化してほしいなあ。
 白羽役は、アンガールズの田中かと一瞬思いましたが、オードリーの若林でもハマるかもしれません。
 鼻の穴に鼻水で膜が張れるかどうかはわかりませんが、それは絶対に張ってほしいですね。
 主人公の古倉恵子役はちょっと思い浮かばない。
 おそらく作者の確信犯ですが、この小説で一番奇妙なところは恵子の外見が一切描写されていないところ。
 もちろん、白羽のセリフによれば美人ではないということはわかるのですが、どうだろう。
 恵子は完璧に仕事こなしているのですが、飲み会にまったく呼ばれていないということは、店のみんなは彼女はどこかおかしいと思っていたということですよね。18年同じ店で働いているというのがウザいということだけではないでしょ。
 でも妹の対応を見ていると、姉ちゃんにそれほどすべてを諦めたような感じではないんだよなあ。
 いないものとして扱うのではなく、やればできるかもみたいに姉ちゃんの可能性を信じている感じで。
 うーん、ハリセンボンの痩せたほうかとも思いますが、情緒のある顔ではいけない気がします。
 原作とは異なりますが、ひょっとしたら美人すぎるような女優を持ってきたほうがハマるかもしれません。
 でもどうかなあ、難しいなあ。能年玲奈でもいけるような気がしますが・・・・あ、のんか今は。年さえなんとかすれば。

 私も学生のときはコンビニでバイトしていたので、雰囲気はわかります。
 コンビニはけっこう、人間臭いところです。色んな人間の交差点です。
 作者の村田沙耶香さんは36歳の今も現役のコンビニ店員ですが、そういう、実は人間臭いのに画一性のマニュアルを求められるコンビニという題材を逆手にとったのではないでしょうかね。
 恵子はマニュアル完璧なのに浮いていた、それは彼女に人間臭さがなかったからであってね。
 それは当然、彼女はコンビニ定員を演じていただけなのですから。それが店のみんなにはわかっていました。
 それでもそのマニュアルのおかげで、彼女は18歳から36歳になるまで生活できていたわけでしょう。
 ある意味、社会というものと私生活のメタファーといえるかもしれません。
 社会人マニュアル。社会から脱落した白羽。白羽によって、気付かされた恵子。
 しかし、人間にとって社会は広いことが必ずしもいいことではないのです。
 普通ってなんでしょうか?
 恵子は恵子のままでよかったと思います。朽ち果てるまで、いつまでも・・・コンビニの中で。


 
 
 

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