「やりたいことは二度寝だけ」津村記久子

本当に、ふつうのひとですね、この方。読んでそれだけは確信しました。

2009年、『ポトスライムの舟』で第140回芥川賞を受賞した津村記久子のエッセイ集です。
一番古いもので2005年10月に書かれており、もっとも新しいのは2010年12月です。
出典はおもに、日経新聞夕刊に週1で約半年間掲載されていたもの、ほかに朝日新聞大阪版の夕刊、文芸誌など。
内容はというと、2009年1月に31歳になった著者がパソコンで気になるワードを検索するという出だし。
たとえば「Feel free」「ライフハック」「トイレに行きたくならない食事」「鼻毛の伸びる早さ」などを検索されております(笑)
ポトスライムの舟はもちろん読みましたし、それ以来のファンなんですが、それほど印象に残っている作品はありませんねえ。本書を読めば、なんとなくその理由もわかるような気がします。
そうそう、『ワーカーズ・ダイジェスト』でなすびカレーになすびをトッピングするキャラが登場しましたが、実際に梅田のサンマルコで著者が見たことがネタになっているそうです。
大阪のひとの割にはもうひとつノリが甘いんですよねえ。面白いことも書けるのですよ、もちろん。たとえば本書で一番面白かったのが2005年11月「群像」に掲載された「小心者の散財」。おしゃれに特別興味もなく腹が出ているのでアッパッパみたいなのを着ている(チュニックね)著者は“服屋に着ていく服がない”(笑)。これわかるなあ。服屋って一番おしゃれして行ってる気がします。これから買うのに必要ないのになあ。なんででしょう?
あと、たぶん著者は気後れするタイプなのでしょうね、男性美容師も苦手でしょうがない。だから、靴屋も服屋も美容師も、みななぎら健壱くらいの気安さと無関心をもってほしいと考えているのです。なぎら健壱て(笑)いいセンスしてますよね、言っている意味もわかりますよ。面白い。でも全般的に地味なんだよなあ。
小説家とは思えないですね。ふつうのひと過ぎて。最近、何かの記事で会社員であることを知りましたが、本書読むとほんと内職で小説書いているみたいな感じですしねえ。会社のミスコピー用紙にネタをメモしています。小説を書くということは、メモをとるということなんて書かれておりますし。9時に寝て、1時半ころ起きて2時間小説を書き、4時半ころまた寝るらしいです。そして会社でも机に突っ伏して昼寝しています。
ほかには紅茶好き、じゃがいも、パンなど炭水化物好き、だから太る、トイレが近い、ゲーマー、鼻毛を抜く、など。
小説を書いてお金をもらうという夢が叶ったのに、特に生活は変わらないそうです。
それでも、本書に度々出てくる友人のYちゃん(彼女に連れられて奈良に行って名作ポトスライムの舟は出来た)も結婚したし、格別面白くはないけれど新作も順調に出ていますし、ひょっとしたら今の生活はこのエッセイ集のころより変化しているかもしれませんね。もうドラクエはしていないと思いますけど……
ただ、恋愛は本書にもまったく触れられていませんでしたが、縁がなさそうですよね。
友人の「わたしには、わたしが稼いだお金でこうやって遊べてて、それが大事やと思う」という言葉に共感していますし、腹も出ていますし、かなりオタクっぽいですし、本人はひとりがいいのかもしれませんね。

ま、どっちかというとエッセイが自己満足、自己完結していてあまり面白くなかったなあ。
あとふつう過ぎてネタがない。これなら私のほうが野糞もしたことあるし、ネタは豊富でしょうよ。
あとがきで著者曰く「それではまた小説のほうでお目にかかりましょう」ということなので、やはり、この方は小説ですね、と私も思いました。





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「残穢」小野不由美

「鬼談百景」(カテゴリーSF・FT・ホラー短編集参照)と本作「残穢」のコンボがこんなに恐ろしいものとは……
これはちょっと、やばいかもしれませんね。尋常ではありませんよ。
正直、こうやって記事書くのも嫌です。フィクションではないでしょ、これ。登場する知り合いのホラー作家とかも実在の人物ですしね。夫も同業の小説家であり、「幽」のことだろうと思われる怪談雑誌の話もあり、どうみても語り手は小野不由美自身ですよ。巻末にこの物語はフィクションですとも何も書いてくれていません。
幽霊なんて見たことないし信じていませんが、脳というハードディスクはそういう現象を起こすかもしれません。
本作がフィクション、ノンフィクションに関わらず、これを読んで恐怖を感じたという事実が、脳に克明に記録され、実生活に何らかの影響を及ぼす可能性はあります。
残穢(ざんえ)、という言葉は「時間の流れや呪術的な清めでも浄化しきれなかった残余の穢れ(けがれ)」という意味で使われており、穢れとは、尋常ではない「死」による怨念の汚染ということだと思います。
人間が住んでいる土地には確実に過去の住人がいたはずであり、前住者の前にはさらに前の住人がおり、その前にはさらに以前の住人がいました。もちろんどこかで何もない原野に行き着くはずですが、そこに至るまでどれだけの人間がそこに住み、どんな生活をしていたのでしょうか。多くの人間が住んでいた以上、時には不幸な死、無念を残す死もあったかもしれません。もしもそうした無念な想いが未来に影響を及ぼすとするなら……
穢れは穢れの連鎖をよび、残穢の根元がどこにあるのかわからないときに、いったい何ができるのでしょうか。

きっかけは久保(仮名)という女性読者からの手紙でした。
ライターである彼女が自宅のマンションで仕事しているときに背後の和室で何かが畳を擦る音がするというのです。
そしてあるとき、彼女はその音の原因が、現実に存在しない垂れ下がった着物の帯であることを見てしまいます。
そして、誰かが昔にこの部屋で縊死したのではないかと疑うのです。
作者はここである一致に気づきます。それは久保さんの住所でした。作者は何年か前に同じマンションの住人からの怪異が書かれた手紙を受け取っていたのです。久保さんは204号室、その手紙の主は401号室でした。
その手紙の書き手は屋嶋さんといい、内容は「鬼談百景」の第34話『お気に入り』と同じものです。怖いので書きません。いよいよ、このマンションは怪しいと思った作者と久保さんは調査を開始するのです。
そのマンション、仮に岡谷マンションは首都近郊のベッドタウンにあり、駅から徒歩15分、築8年、鉄骨コンクリート4階建て1フロア5室。やがて、久保さんの前住者は何かがあって204号室を退去したあと自殺していたことがわかりました。しかし、それは久保さんが部屋の怪異に気づいてから後のことでした。
さらに久保さんの調査によって、岡谷マンションに隣接している、木造3階建ての狭小住宅6棟で構成される岡谷団地でも5年7ヶ月で8人も居住者が入れ替わるなど、何らかの怪異が発生していることがわかったのです。
岡谷マンションと岡谷団地の土地には過去に何があったのか?時間をかけ気の長い調査によると、岡谷マンションが建つ前には小井戸というゴミ屋敷、松坂家、藤原家、根本家(藤原家の土地分譲)があったことがわかりました。一方、岡谷団地のほうは後藤家(のちに村瀬家)、川原家(最後に稲葉家)、政春家がありました。
うちマンションのほうの小井戸家、松坂家の2軒の土地はかつては高野家でした。そしてそれは昭和30年ごろ、高野家の奥さんが娘の結婚式の直後に自殺していたのです。高野家は一周忌をすますと転出していました。
この自殺が現代の怪異の原因か?違うのです、自殺した奥さんも原因不明の怪異に悩まされていたのです。
調査はさらにこの土地の時代を遡り、大正11年創業で終戦の翌年全焼した金属工場とその従業員の長屋での事件、さらにはその工場が建つ前にあった吉兼家という家の謎にまで迫るのですが……
これ以上は書けません。やばいです。具体的な事象のひとつは「鬼談百景」の第90話『欄間』もそのままの内容で出てきます。

年を重ねるごとに逆の意味で便利になるのは、すぐ忘れてしまうという脳機能の劣化です。
はやく次の本を手にとって、脳をフォーマットしたいと思っています。




「鬼談百景」小野不由美

暑いですねえ。
私は霊魂の類を信じてはいないんですが、こう暑いと、こういうものを読むに限りますなあ。
信じていないと云いながら、けっこう怖かったです……
タイトルは百景ですが、選りすぐりの怪談が99篇収められています。
怪談といっても、あなたの知らない世界みたいなノンフィクション系ですよ。体験者が実在するかどうかは知りません。
小野不由美が創ったのか、他人に聞いた話を集めたのか、私は聞いた話をアレンジしたのでは、と思っています。
「可怪しい」(おかしい)という単語が覚えてるだけで4、5回出てきましたし。ふつう、使わないですね。
実は、「残穢」という小野不由美の新作ホラーを読んでみようと思っていたのですが、どうも本作がセットになっているというのをあるところで目にしたので、先に読んでみることにしたのです。刊行日はほぼ同じだし。
それに、本作が99話なのは、「残穢」が百物語(百景)の100話目である、ということかもしれないでしょ?
だから、この記事を書いたあとに「残穢」を読んでみます。
その前に、本作で印象に残った怖い話を、元が数ページですから要約するのは難しすぎるので、簡単に……

「一緒に見ていた」放課後の空き教室で、事務の女の子が首を吊っているのを見つけた教師。慌てて同僚に知らせ、ひとりで現場の番をしていたとき、何者かにそっと両肩に手をおかれた感じがした。ほかの教師が戻ってくる足音がするまで、振り向けずじっとしていた。
「教えてくれたもの」同級生が学校の地下室で死んだ。原因は不明。クラスの仲間はこっくりさんに訊いてみた。「それで結局、お前はどうして死んだんだ、と誰かが訊いたとたん、十円玉が死んだ」
「香水」バスの後ろのシートが、いきなりどしんと揺れた。蹴られたと思って衝動的にシートを叩くと、後ろから呆れたような若い女二人連れの声が聞こえてきた。実は声だけで誰もそこにはいません。
「謝辞」深夜の病室、15センチほど開いたドアの隙間から腹這いの老婆とその孫くらいの女の子が入り込んでくる。
「第七コース」プールは全8コース、クラスの40人が列を作ってタイムを計ったのに、1人余っている……何がどこに割り込んできた?
「トンネル」夜半の高速道路で、女性を撥ねた!と思って急停車するとなんの痕跡もない。向かいからタクシーがきて止まり、事情を言うと「あー、ここよく出るんだよ」と。あとになって落ち着いてみるとその高速は二車線で反対車線などあるはずがなかった。
「ぬいぐるみ」これが一番怖かったです。本人も気に入り、祖母に買ってもらったクマのぬいぐるみに何かが取り憑いている。閉じ込めてもなぜか部屋に帰ってくるぬいぐるみの面相はだんだん変わっていく……
「続きをしよう」普段遊ばない墓場で遊んだ子供たち。怪我をしてひとり、またひとりと帰っていくのになぜか「もう帰ろう」と誰も言わないまま、ついにふたりきりになって……最後に残った子どもはどうなった!?
「雨女」前を歩く女性はどんなだろうと思ってるうちに、突然、女性がKさんの傘の中を覗き込んできた。パッと傘の下に女性の顔が現れた感じだった。勢いをつけて身を屈め、上体を捻って下のほうから見上げるように傘の中を覗き込んできた。表情のない白い顔、ウエーブのかかったセミロングの髪、まじまじと見つめるような見開いた眼。
「逆らう手」一休さんというこっくりさんの黒板版をしていた女子高生たちのチョークを持つ手が、恐るべき何者かに乗っ取られる。「お た の し み」
「空きチャンネル」NHKラジオの教育放送を聴こうと思ってチャネリングしていると、偶然、女性の声が聴こえてきた。ふつう、その周波数にはなんの放送もないはずである。妙にはっきりとしているその女性の声はいったい何の話を語ろうとしているのか。

特別に、私もバックパッカーと冒険を足して二で割ったような生活をしていたときに経験した不思議な話をしようと思います。幽霊ではありません。昔、中国の雲南省とラオスの国境のジャングル地帯で迷い込んだことがありましてね。たったひとりで。数日ほどどこにいるのかまったくわからなくなりました。それでも、ネパールの山中やらを独力で冒険したこともあったのでなんとかなると思っていたのですが「俺が死ぬはずがない」が「俺は死にたくない」そして「死ぬかもしれない」に変わっていきました。毒蛇が一番の恐怖でした。また、見てませんが豹もいたと思います。とにかく道というものがまったく見当たりませんでした。上空にも何も飛ばない。人工の音がない。遭難というのは現実にするものです。下を向いて歩いていてふと目を上げると山というのは顔を変えているものです。とにかくのどが渇いてしかたない。未開放の集落にでも出くわしそうなのにまったく見当たらない。
そのとき、夜半、たぶん小高い山の中腹くらいに私はいたんだと思います。むこうの方に、光が見えたんですね。火というか、灯りみたいなのが。もう、とっさに私は走りました、ドロドロになったバックパックが破れようが躓いてこけようが構いません、必死にその光に向かって道なき道を渾身の力で走ったのです。国境の公安の事務所かなと思いました。怒られても国外退去になってもどうでもよかったです。それに今はどうだか知りませんが、当時の中国の公安はそれほど日本人に冷たくなかった(中には悪いのもいたが)。もう、すり傷だらけでした。
するとね、不思議なことにいくら走ってもその光に近づけないんですよ。ぜんぜん近づいているという実感がない。そして、そのときの私の感情は、いま思い出そうとしても正確ではありませんが、その光に、何かの悪意を感じました。そして急に恐ろしくなって走るのを止めて、一瞬考えて、逆に光から逃げるように斜めに走りました。
結論からいえば、次の日の早朝、道に出くわして、おんぼろの乗り合いバスに拾われたんですけどね。帰るにはモンラーというけっこう大きな町まで5時間くらいかかったんじゃないですかね。春節に近かったからか荷物を置いていた安ホテルの親父は酒かっくらってずっと酔ってましたから、あそこで私が行方不明になっても事件にもならずただの白骨化だったでしょう。不思議かどうかはともかくとして、私にとっては今までで一番やばかった出来事です。






「ケルベロスの肖像」海堂尊

いつものことながらタイトルだけは超一流です。
デビュー作が『このミステリーがすごい!』大賞を受賞して、審査委員から執筆過程の質問をされたときに、「プロット?プロットって何ですか?」と作者は聞いたらしいのですが、そのほのぼのとしたエピソードが懐かしいです。
出始めは面白かったんですがねえ。ただの医師兼作家という特殊な専門性を超えたものがありましたから。
たしかに死亡時画像診断という伝家の宝刀を引っさげて、死因不明社会を糾弾したまではよかった。
それは海堂尊でなければ出来なかった、このことは認めますし、世間がすでにそれを認めています。
しかし、本作を読んでいよいよその感を強くしたのですが、もう物語を創りあげる作家としての才能の泉は、この方、枯れかけようとしているんじゃないでしょうか。もうオワタオワタ感が強いね。本作も撤退戦でしたよ。
もう、ここまででいのかもしれません。海堂尊は大きなものを手にしただろうし、読者も十分楽しみました。
ただ、権力のつかみ方にもいろいろあるなあと思う。そしてこの人の戦いはまだまだ続いていくんでしょう。
それはずっと応援していきたいと思っています。

さて、本作「ケルベロスの肖像」はシリーズ前作「アリアドネの弾丸」の直後の世界が舞台です。
といっても、「アリアドネの弾丸」の内容をまったくといっていいほど忘れていました。過去記事に書いてあるのを読んでもいっこうに思い出しません。バカかと思いましたね。どうせ酒を飲みながら記事を書いたのでしょう。
過去記事「アリアドネの弾丸」(カテゴリー医療小説・ミステリー参照)では、「西園寺さやかは桜宮すみれかと思っていたら桜宮小百合だった、私はどこで勘違いしたんでしょう……」なんて書いてある。まったく記憶にないのですよ。本作では2年前の碧翠院桜宮病院の火災事故から生き延びた桜宮小百合は重要なファクターであり、少なくともそこだけでも前作の記憶が残っていれば、もっと面白かったかもしれません。ま、仕方ない。
本作で少し触れられているのを読めば、前作「アリアドネの弾丸」では、警察の暴走により、東城大学付属病院が崩壊させられそうになったのを、Aiの使用によって忌避したらしいです。そういや、そんな気がする。
で、今回はかつての“でんでん虫”桜宮病院の跡地に建設されたAiセンターのこけら落しが迫り、医療と司法の最終戦争が始まろうとしているわけですが、そこに東城大学付属病院に激しい恨みをもつ、桜宮家の生き残りが絡んでくるわけです。なぜ、桜宮小百合が東城大を恨んでいたか、「螺鈿迷宮」の話であり、これはまたややこしいし忘れているのですが、ようは東城大のサテライト病院で厄介な仕事を押し付けられていた桜宮病院が、東城大、ようは高階に切られたのですね。でもそれは、桜宮小百合の誤解もあると思いますが……
こけら落としを控えたAiセンターを標的にした脅迫文が送りつけられるのです。
それは『八の月、東城大とケルベロスの塔を破壊する』と、新聞の切り抜き文字で貼り付けられていました。
ケルベロスは冥界の入り口を守る番犬であり、死者が黄泉の国へ行くときに通り過ぎるのはAiセンターです。
高階病院長は、Aiセンターのセンター長であり不定愁訴外来の責任者であり最終清掃人(ラストスイーパー)田口公平にこの件の対処を依頼します。厚生労働省のご存知白鳥の部下である姫宮香織に、この脅迫に桜宮小百合が絡んでいると聞かされた田口は、独自の調査を開始するのです。
そんな中、マサチューセッツ医科大学からノーベル賞候補と云われている東堂文昭がでかい土産を抱えてセンターに赴任してくるのです。その土産とは、マンモスMRIマシン、リヴァイアサン。ウクライナのアントノフ輸送機で運ばれてきたこの40トンのマシンは、9テスラ、100ミクロンの解像度を誇ります。
Aiセンターの開業に向け、着々と時は進みますが、さて、その日に何が起こるのか?
極北に飛んでいるキャラクター以外は、海堂作品のメンバーが集結しました!バチスタシリーズの完結編です。

「アリアドネの弾丸」はもちろん、「螺鈿迷宮」「ブラックペアン1988」も読んでいないとなんのこっちゃわかりませんね、きっと。懐かしいメンバーも出てきました、天馬大吉なんて、ほんと久しぶり……
また、ラストでは「モルフェウスの領域」「ナニワモンスター」に時間が引き継がれていくことが匂わされています。そういや、「医学のたまご」では本作の結末も書かれていたんでしたっけ。その先では高階が大学長になっていたと思いますが、そうすると東城大学付属病院は田口の手によって復活したんでしょうねえ。
気になるのは白鳥のセリフ「二十年前、坂田局長と高階病院長が桜宮に花開こうとしていた桜の樹を無理やり引っこ抜いた」。これはスリジエ・ハートセンターのことですね。そして本作にはあの天城雪彦の謀略があった。そう「ブレイズメス1990」のあとの世界だけが桜宮サーガの空白になっているわけです。
もう書いてるのでしょうか。やはり、もう1冊読まなくちゃいけない???




「忍者月影抄」山田風太郎

久しぶりに山田風太郎の忍者伝奇小説を読みました。
いつまでたっても甲賀忍法帖の薬師寺天膳が忘れられないのです。あれは強烈なインパクトがあったなぁ。
それや柳生十兵衛モノに比べると、私個人の好みでは本作「忍者月影抄」はちと大雑把というかストーリーが忙しすぎると思いますね。いつものような忍者バトルロイヤルに柳生剣士が混じってくるので、ややこしいのですよ。
そんな中で私が気に入った忍法は、「忍法足三本」。公儀お庭番の七溝呂兵衛の必殺技で、腸を肛門から蛇のようにたぐり出し操ることができるのです。敵の刀に巻き付いたりとかね。この発想がすごいですよ。三本目の足が腸だったとはね。笑ったのは、これも公儀お庭番の百沢志摩が、身体を小さく折りたたんで牢屋の中にあった二斗樽から煙のように現れた場面。「怪しいものではない」の一言に思わず爆笑してしまいました。子どもでも入れないような樽から黒い影みたいに出てきたおっさんほど怪しいものねーよ(笑)しかも、このおっさん何したかというと、牢屋に入れられていた女の人の下の毛を一本残らず抜いていったのです。これも忍法のため。風太郎忍法帖恐るべし……

あらすじ。
享保17年(1732年)、お江戸日本橋の「晒し場」で前代未聞の椿事が起きた。
背中に「公方様御側妾棚ざらえ」とかかれた全裸の女が3人、杭に繋がれていたのである。
時の将軍徳川吉宗の信任厚い南町奉行大岡越前守忠相が探索したところ、どうも尾張61万9千石の7代当主たる中納言徳川万五郎宗春が陰でこの事件の糸を引いているようであった。
吉宗は将軍襲職以来、士風の退廃と市民生活の華美を鞭打ってきた。のちに享保の改革と呼ばれるものである。
一方、尾州宗春は遊興を好み、とくに女遊びは凄まじかった。あまりにもその贅沢三昧が目に余ったので幕府から譴責の使者が出向くと、公然と、過去には同じように遊んでおったものが所変われば道徳を説くのはおかしい、わしは陰日向のある偽善者は好かぬ、と言い放ったのである。これが「晒し場事件」のひと月まえの出来事であった。
どうやら、宗春は将軍吉宗のかつての愛妾を天下の晒し者にするのが目的らしい――
吉宗と彼の信頼する大岡越前、老中松平左近将監で話し合ったところ、吉宗には32歳で紀州を離れるまでに18人の愛妾がいたことがわかった。うち8人は亡くなっており、既に晒された3人を除くとあと7人。この7人を尾張の連中に晒されるまえに何とかしなくては、御政道が保てない。吉宗は紀州の隠密組織をそのまま移して創設した幕府の秘密機関「お庭番」の精鋭、伊賀鍔隠れ谷の忍者を7人動員する。さらに江戸柳生の猛者も7人つけた。
対する尾張藩は、名古屋城築城と創始を同じくする百数十年にわたる秘密組織「御土居下組」の甲賀卍谷出身の忍者が7人。そして尾張柳生からも7人。
伊賀と甲賀の数百年にわたる宿怨の歴史。そして江戸柳生と尾張柳生の積年の確執(尾張のほうが血縁が直系であるのに江戸が将軍番をしているのが気に食わない)。江戸、徳島、尾道、堺、京都、そして――いま、28人の異形の戦士が全国を舞台に幕府と尾張の、いや吉宗と宗春の代理戦争を繰り広げる!

お庭番も御土居下組も「柳生じゃま。いらね」と言ってましたが、私もそう思いました(笑)
それでも彼らとコンビを組まされていたのは、本作でも感じる忍者の格の低さゆえなのでしょう。
ちょっとややこしいので、目当ての女性とそれを巡る闘争で死んだキャラクターを書いておきます。
なお、一番活躍したのは、銅拍子(シンバルみたいなの)を武器として使う城ヶ沢陣内だと思われます。

対象の女性・場所        尾張方戦死              公儀戦死
おせん            水無瀬竜斎              多田仁兵衛(柳)
尾張候江戸屋敷                           百沢志摩
弥生           秋月軍太郎(柳)御堂雪千代      寺西大八郎(柳)熊谷頼母(柳)一ノ瀬孤雁
卯月           木曽ノ碧翁 杉監物(柳)        戸張図書(柳)真壁右京
お浜           不破梵天坊 土肥団右衛門(柳)     砂子蔦十郎 櫓平四朗(柳)
おぎん          山城十太夫
お駒         門奈孫兵衛(柳)雨宮嘉門(柳)鞍掛式部    城ヶ沢陣内
お鏡         遊佐織之介(柳)沢左司馬(柳)檀宗綱     九鬼伝五郎(柳)大道寺竜助(柳)
                                        七宮呂兵衛 樺伯典


                                                              

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