「水魑の如き沈むもの」三津田信三

 刀城言耶シリーズの長編第5弾です。
 時は、終戦からおよそ10年近く経った、前作「山魔の如き嗤うもの」(カテゴリー民俗ホラー・ミステリー参照)から、2ヶ月後のお話。事件の舞台は、奈良の山奥、蛇迂(だう)郡の波美地方。もちろん架空ですね。
 奈良には宇陀(うだ)という場所がありますが関係ありません。イメージ的にはこの話の場所はもっと南の山奥です。
 ここに、4つの村がありました。
 西から五月夜村、物種村、佐保村、青田村。西の端の五月夜村が一番古くから拓かれている村です。
 4つの村はすべて、北側が水田地帯、南側が寺社地帯となっており、北側と南側は、西から流れている深通川によって区切られています。深通川を遡っていくと、二重山という波美の西端の山中にある沈深湖という、上野の不忍池くらいの池くらいの大きさの水源に行き着きますが、ここには水魑様という龍神が祀られた祠があり、湖底には水魑様がおわせられると村人たちには信じられています。
 4つの村の南側には、それぞれ水使神社、水内神社、水庭神社、水分神社という神社があり、本殿には深通川から水を引いて、水魑様を祀っています。つまり御神体は水(龍神)なわけですね。
 また、各神社は水利組合を組織して、それぞれの村に水を分配する「番水制度」を施行しています。
 そして、波美地方に増水による氾濫や日照りによる渇水が起こる度、それを鎮めたり潤すために、各神社の宮司が選ばれて、水魑様の儀という、沈深湖において神事を執り行うことになっていました。
 儀式では“神男”と呼ばれる宮司が、“神女”と呼ばれる巫女が舞を踊り、その他の宮司や水利組合が音楽を奏でる中、船に乗って水魑様に捧げるたくさんの供物を湖底に沈めることになっています。
 供物が浮き上がってくると、神男は湖に潜って水魑様が受け取ったと認められるまで、それを沈めなけれななりません。
 23年前、神男として湖に潜ったまま、行方不明になった宮司がいましたが、水魑様に呑まれたのだと云われており、また、13年前には神男となった宮司が、船上で何事かの恐怖に顔を引きつらせたまま、心臓麻痺で息絶えるという事件も起こっています。
 そして数年ぶりにこの地方で、雨乞いの水魑様の儀が行われることになり、例の、「流浪の怪奇作家」が訪れることになるのですが・・・もちろん、ただではすみませんわねえ。しかも、今回はコブ付きというか、「探偵助手」もいたりして・・・

 いつも通り長くて複雑な物語なんですが、今までより読みやすいかもしれません。
 しかし、この地方の方言で「~け」という喋り方をすることになっているのですが、これが異様に目障りというか鼻につくというか、ふつう奈良だから関西弁だと思うんですけどねえ。なんで「~け」なんだろ。
 まあ、それはともかく、今回は不可解な“密室状態の湖”で発生した神男連続殺人事件がネタになったわけですが、間違いなく今までで一番、誰が真犯人であるのか興味がそそられる話でしたね。
 結果、ああそうか、そうだわな、ということになったわけですけども。
 水庭游魔がどこまで事件そのものに関わっていたかなあ。本当にまったく関係なかったのか。
 しかしまあ、游魔が戦時中に所属していたという伏龍特攻隊と、こんなところでお目にかかれるとは。
 物知りというかマニアックだよねえ、三津田信三は・・・伏龍なんてどれほどの日本人が知っていますかねえ。
 懐かしい名前も出てきました。蒼龍郷の神々櫛村。これはシリーズ初弾の「厭魅の如き憑くもの」の舞台となった場所で、さぎりと名付けられる双子が巫女となる憑き物村でした。そして本作の「左霧」も、そこの出身だったわけですが、なんと波美の生き字引といわれる重蔵という老人も、神々櫛村に縁のある人物ということでした。
 確か神々櫛村は、神かくしの噂もあったなあ・・・と思いまして、ひょっとしたら重蔵なる老人は子供のころ、何者かにさらわれて奈良の山奥まで連れてこられたのかもしれません。
 ちなみに、刀城言耶が神々櫛村を訪れる「厭魅の如き憑くもの」の物語は、本作より後のお話のようです。
 だから、神々櫛村と聞いたときの刀城言耶の態度が、読者にとって?なものに思えたのです。彼はまだ知りません。

 で、本作の一番の謎はというと・・・
 左霧、正一、鶴子、小夜子の家族が満州から舞鶴港に引き揚げてきたとき、重蔵が迎えに来ていましたが、彼が言ったひとこと「追い掛けて来よったか・・・」。これ、本当の意味がわからないままです。
 これを気にしながら読んでましたが、最後までわかりませんでした。
 いまだにぞっとします。
 村から久保(龍璽のお庭番)が尾けてきたのかなあ、とも思ったんですが、よく読んでみると、少し頭の弱い鶴子のことを見ながら言っているようにも思えるし(何か憑いている)・・・海のほう、あるいは左霧の過去を指しているようにも見えます。
 追い掛けて来よったか・・・・ 謎ですね。
 誰か、わかる方いらっしゃいませんか?


 
 
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「密室の如き籠るもの」三津田信三

 放浪の怪異蒐集家・刀城言耶シリーズ初の短篇集となります。
 表題作「密室の如き籠るもの」だけが少し長くて、他に50ページ程度の手頃なのが3篇。
 あまり筋には関係ありませんが、時系列は本シリーズと前後しているようです。
 たとえば「隙間の~」は凶鳥の後、「密室~」は首無の前の出来事になります。
 また、登場人物に関しては、怪想舎の編集者で刀城の担当である祖父江偲の名前が頻繁に出てきますね。
 ですからまあ、面白いかどうかは別にしてですよ、これからのシリーズ展開を楽しんでいく上では、短篇集だからといえど抜かすわけにはいかないということになるかと思います。
 正直言いまして、それぞれの物語の怪しげな背景というか雰囲気は抜群なわけですけども、ミステリーのオチとなると、ちょっとどうかなあというレベルですね。特に冒頭の話なんて、そりゃねえだろ苦し紛れかと思いましたが(笑)
 ただ、作者がこのシリーズで好んで挟んでいる小説の中の挿話なんですが、これまでになく怖いものがありました。
 登山しているときに追いかけられるやつね。
 こんな話読んだら、山登れねえじゃん・・・(=o=;)

「首切の如き裂くもの」
 あの路地にはお化けが出る・・・小学4年生の鷹部深代はそんな噂を聞いてゾッとした。
 東京郊外の株小路町。戦前からの町並みが残るこの屋敷町の路地で、凄惨な連続殺人事件が発生したのは1年前のことだ。路地の突き当りは氏神様の祠で完全な行き止まりになっている。ここで1ヶ月の間に4人の女性がカミソリのようなもので喉を裂かれて殺されたのだ。喉裂き魔と呼ばれたこの犯人は、不気味な南方の魔物のお面を被っていたという。
 事件は路地に面する元伯爵家の復員した長男が疑われ、彼は祠の前で自害した。死後、彼が真犯人であるという物的証拠は見つからなかったが、事件は止んだ。しかし、1年後の彼の命日に、再び血の惨劇が・・・
 このオチはないわ。これだけはない。断言できます。

「迷家の如き動くもの」
 おそらく場所は飛騨とか高山とか、あの辺りかと思われる。
 村から村へ毒消し(薬)の行商をして歩くふたりの少女。そのうちの1人が奇妙なものを見た。
 佐海山という山の頂にきたとき、向かいの三叉岳に屋根の黒い家を見たのだが、それより5時間前に同じ所を通ったもうひとりの少女はそんな家を見ていないというのである。同じ峠で行き合わせた同業者の男も、その1時間後通ったがそんな家はなかったという。つまり朝の7時になかった家が昼の12時に現れ、再び1時に消えたということになる!?
 さらに第2の男が現れ、それは「人を喰らう迷家だ。遠野物語に語られる、ときに幸せを運ぶマヨヒガではない」と言い切り、事態は怪談化する。そしてそこに第3の男が杉の木の陰より現れるのだが・・・
 木影より刀城言耶登場の新パターン。物語は今までになくサスペンス風に緊迫。

「隙魔の如き覗くもの」
 五字町立五字小学校で教員をしている嘉納多賀子は、ドアや引き戸の隙間から何かを幻視する。
 物心つく頃から、襖や障子などをぴったり閉めないと、必ず祖母に叱られた。その理由は彼女が8歳のときにわかる。ふとした拍子に開いた障子の隙間を除くと彼女が見たものは・・・祖母が言うには、それは「隙魔」といい、嘉納家の女性が代々、見るものなのだという。以来、国民学校4年時の林間学校のときや、中学2年生の文化祭など、ことあるごとに多賀子は隙間から“魔”を幻視してきた。それは過去や未来の、彼女を取り巻く裏の人間関係を教えてくれた。
 しかし学校の夜の見回り中、多賀子は今までにない不可思議な幻視を見る。それは、校長の坂田が鬼に追いかけられているというものだった。これは何を暗示しているのか? 虫が知らせて用務員の老人に校長の自宅に電話してもらうと、取り乱した奥さんが電話に出て・・・
 凶鳥の後日談があります。差出人のないハガキの裏に、大空に飛び立つ鳥が二羽・・・

「密室の如き籠るもの」
 母は本当に人間なのだろうか・・・猪丸巌は思う。父の3人目の妻となる義母には人ではない何かを感じる。
 終下市で幅広く商売を営む猪丸質店。10歳の巌の母は当主・岩男の最初の妻だが、巌が3歳のとき死んだ。
 その1年後、岩男は芸妓を身請けして後妻とし、月代という義弟を産んだが、彼女も巌が8歳のとき死んだ。
 そして2年後・・・家の裏の雑木林で迷子になった月代の手を引いて現れた乞食女に、あろうことか父は懸想した。
 葦子と名乗ったこの女性は着飾るとたいそう美人になったが、どうやら記憶喪失のようだった。そして、日常生活のすべてがちぐはぐだった。家の賄いをしている老婆の染などは、葦子を「人外のもの」といい、岩男の結婚に反対した。
 しかし、家にきた次の日、長らく開かずの間になっていた猪丸家の蔵座敷から、狐狗狸(こっくり)さんの西洋版である自動筆記板(プランシェット)を見つけ出した葦子は、訝しむ家人たちの前で狐狗狸さんを成功させ、岩男の信用を得る。
 やがて葦子の行う狐狗狸さんは評判となり、まるで巫女のごとく神父の服を着た葦子が座す蔵座敷に大勢の人が並ぶようになった。刀城言耶もその噂を聞きつけたひとりで、あまり来たくもない(前年の殺人事件で中の悪い父・刀城牙城が活躍)終下市にやって来、猪丸家の門をくぐったのだが・・・恐るべき事件が発生してしまう。
 最大の謎は、「じゃあ、葦子はいったい何者だったの?」ということですが・・・
 少なくとも、殺されたのなら人間だったということですが、それ以外は、はたして見世物小屋の一員だったのか、怪しげな拝み屋でもしていたのか、記憶喪失が本当だったのかさえまったくわかりませんでした。猪丸家に伝わる赤箱の真相も謎のままです。ただ、ラストの刀城言耶の手紙に「裏の雑木林に近づくな」とあったのは、ぞっとしましたが・・・



 
 
 
 
 
 

「山魔の如き嗤うもの」三津田信三

 刀城言耶シリーズ第4弾ということになりますか。
 相変わらず、“むつこい”です。ヘビーです。サラッと読めません。
 しかし、この独特な昭和の地方民俗をベースとしたラストの鮮やかなミステリーは、他書に類を見ないものですね。
 最初のほうは、読みながらどうしようかと思うくらいわかりづらくて、というのも昔の地方というのは、現在の都市とは違って人間関係が複雑なのですよ、しかも家にたくさんの人間がいたりしますからね。名前も似ているし。
 しかし、そういうのが熟れてきて、ストーリーが白熱してくると、俄然引き込まれ感がハンパありません。
 しかもシリーズ4作目なので、だいぶ慣れてきましたし、今回も読後は満足できたように思います。
 つまり、読書に費やした所要時間が有意義であったと思える、ということです。

 今回は少しだけ前作と繋がりがあります。
 前作「首無の如き祟るもの」(カテゴリー・民俗ミステリー参照)の中で、刀城言耶と大学の先輩である阿武隈川烏がふたりで旅行していましたよね。あれは、前作の舞台であった奥多摩の媛首村を目指していたのですが、車中に乗り合わせた村の駐在から「山魔(やまんま)」の話を聞かされ、知らない怪異譚を聞かされると居ても立ってもいられない、放浪の怪奇小説家・刀城言耶は当初の予定をねじ曲げ、渋る阿武隈川を連れて、山魔の伝説が残る、奥多摩を流れる媛首川の源流域である神戸(ごうど)のさらに北の奥にある奥戸(くまど)の集落を訪ねたのです。首尾はよくありませんでしたが。
 その出来事が、昨年の晩秋のことだった、と記されています。
 ちなみに、本作の本筋の物語は、20年前に東郷平八郎の国葬があったと書かれているので、昭和29年の話です。
 昨年の晩秋(昭和28年)奥戸を訪ねた刀城言耶は、再び集落を訪れて、凄惨で奇っ怪な連続殺人事件の捜査に当たることになります。しかも今回は、この地方に伝わる童唄の歌詞の通りに事件が進行する、見立て殺人となっています。

 きっかけは、東城雅哉こと刀城言耶が作品を発表している雑誌の出版社である怪想舎の編集者、祖父江偲が言耶に渡した原稿でした。原稿といっても、創作小説ではありません、それを書いた郷木靖美氏が実際に体験したことなのです。
 奥戸の手前にある集落・初戸(はど)の筆頭地主で、山林家でもある郷木家の4男に生まれた靖美氏は、父や3人の兄と違って虚弱で内向的に育ちました。家族内でバカにされてきた靖美氏を庇護したのは祖母だけで、祖母の尽力で東京の大学に進んだ靖美氏は、そのまま東京の学校の教師となったのですが、初戸の集落には、成人参りという儀礼があって、20歳のときにそれを通過していない靖美氏は、今更のようにそれをするために実家に帰る羽目になったのです。
 成人参りとは、神戸(ごうど)の聖なる山である三山の里宮から奥宮を独りでたどって拝礼する儀式のことです。
 ところが、靖美氏はこの参道で数々の怪異にあって、あろうことか完璧に道を迷ってしまうのです。
 大禍時(おおまがどき)。山中の日暮れは釣瓶落としの如く早いことは多くの方がご存知でしょう。
 方向のわからなくなった靖美氏は、知らぬ間に忌み山である乎山(かなやま)に入り込んでしまったのでした。
 道なき道を進み声なき声を聞き、そこで彼が目にしたのは、入らずの山には絶対ないはずの2階建ての一軒家。
 家には、奥戸の炭焼人の元締め・鍛炭家の長男で、大昔に家を飛び出した正一とその家族が住んでいました。
 聞くところによると、山を出た正一は、山窩のような暮らしを続けて日本中を放浪しているのですが、たまたまこの近くに寄ったとのこと。この家は、20年前に乎山に金鉱があると言ってやって来た山師に騙された三男の正造が、鉱夫のために建てたものだということでした。
 しかし、驚くべきことに明朝、靖美氏が起きると、朝餉の支度がされたまま一家が忽然と消えてしまっていたのです。
 それ以来、なんとか東京に帰ってきた靖美氏は、成人参りが御破算になったこともあって、まるで憑き物がついたように引きこもってしまいました。
 参道での怪異と一家消失事件の謎を解くべく、再び奥戸に向かう刀城言耶。
 そこには、昨秋世話になった奥戸の山林家・楫取(かじとり)力枚氏が待っていました。
 そして、またしても終下市警察署を恐怖のどん底に突き落とす、連続殺人事件が奥多摩で発生するのです。
 刀城言耶の行くところ、必ず事件あり・・・

 今回、刀城言耶と供に事件の捜査をするのは終下市警察署の鬼無瀬警部。
 これも昨秋、終下市の繁華街で起こった連続猟奇殺人事件の謎を解いたのが刀城言耶の父である、探偵・刀城牙城ということで、その関係から事件の捜査で刀城言耶の言うことを聞くようになります。
 刀城牙城のほうはともかく、刀城言耶のほうは父親のことをずいぶん嫌っているようですが・・・
 今回はそのへんの屈託も書かれていました。また、祖父江偲という東京の出版社のキャラも新たに登場しました。
 謎解きのほうも、“むつこさ”がある上に、山魔などの怪異の謎解きはなんだそりゃなんですが、あの鍛炭家の子供だれだっけ立春か、彼の元まで山魔が迫ったときの迫力とあのセリフはすごく良かったと思います。
 結局、山魔が怖い彼が山魔になって山魔を脅したという、なんとも言えないオチが・・・



 

 
 
 

「首無の如き祟るもの」三津田信三

 民俗ホラーミステリー・刀城言耶シリーズの第3作ですね。
 相変わらず、コッテリとしてますな。5千キロカロリー脂肪過多、みたいな感じの本ですが、まあ、面白いか面白くないかと聞かれれば、間違いなく面白いミステリーですよ。ちょっと濃ゆいですけどね。
 前作の「凶鳥の~」は、非常に私好みでしたが、完成度シリーズ1とも評価される本作はどうかな?
 マジで怖いかな(?_?)、それとも・・・

 これまでの2作と違うところは、最初から刀城言耶がいないこと。
 日本全国の怪異譚を収集し民俗採訪の旅をしている、怪奇幻想作家の刀城言耶が赴く先で必ず奇っ怪な事件に巻き込まれて、一瞬、呪いや祟りかとも思われる不可思議な出来事の謎を解くという趣向でしたがね。
 今回は、先輩で京都の神社の跡取り息子・阿武隈川烏とふたりで旅をしているのですが、本作の舞台である奥多摩の媛首村で逗留するはずが、山魔(やまんま)の伝承が気になって違うところに行ってしまいます。
 これは少々ネタバレになるのですが、ラストで出てきたのは、私はおそらく「違う」と思うので、彼の出番は唯一ここだけでしたね。汽車の中で、村の駐在であり本作のメインキャラクターでもある高屋敷元と喋った場面だけです。
 じゃあ、「あれ」は誰だったのか? それはまた覚えていましたならば、のちほど・・・
 では、簡単にあらすじ。
 物語の焦点となる事件は、10年の間隔をおいて戦中と戦後の2回起こっています。その2回とも関連性があります。
 事件の舞台は、東京の奥多摩は深山幽谷のただ中、媛首村。
 この村には筆頭地主である有力な秘守家という名家があります。秘守一族は当主を一守家と呼び、分家は二守家、三守家と呼ばれていて、一守家の長男が秘守一族の長になるという不文律がありました。
 ところが、今まで一守家はかろうじて家督を守ってはいるのですが、なかなか男児が生育せず、ほとんどが幼児のころに死亡してしまったり、長じても病弱だったり、怪我が絶えなかったりするのです。
 村では、これを淡首様の祟りだと信じていました。
 淡首様とは、非業の死を遂げたふたりの女性をまとめて称したもので、ひとりは天正18年(1590)に媛神城が豊臣勢に攻められたときに首を斬られた城主の妻・淡媛。もうひとりは、宝暦年間(1751~1763)に秘守家の当主の後妻に入って使用人と駈落し、後に当主に騙されて呼び寄せられ首を斬られたお淡。
 以来怪異が続いた村では、中央の媛首山に媛神堂を建てて祀ったわけですが、この二祀神こそ代々に亘って秘守家を護りながら、また同時に祟り続けているというわけなのです。
 よく聞くセリフに「末代まで呪ってやる・・・」というのがありますが、これ、よく咀嚼すると、家は絶えることなく末代まで続くということですよね? 怨霊がいつまでも祟り続けるためには、その家筋が続いていなくてはならないのです。
 大変だよ怨霊も。加減しなくてはなりませんし。もちろん祟られる方もたまりません。
 で、実際にこの物語で取り上げられることになる事件はというと、太平洋戦争中、「十三参り」といって一守家の子息の健やかな生育を願う儀礼があるのですが、この儀式の途中で一守家の嫡子・長寿郎の双子の妹が井戸に落ちて死にました。村の駐在の高屋敷は不審を覚えますが、戦時中とはいえ死因も調べずにすぐさま葬儀が執り行われ、あっという間に荼毘に付されました。現場は密室状態で、容疑者がいない上に、相手が長寿郎ならともかく妹とは動機が見えず、かといって事故とするには不審な点が多すぎる事件でした。
 そしてそれから10年後。今度は、前回とは比較にならないほどの惨劇が媛首村を襲いました。
 23歳になった一守家の長寿郎に複数の花嫁候補を引き合わせる婚舎の集いで、秘守家の遠戚である古里家の毬子が殺され、あろうことか肝心要の長寿郎まで続いて殺されてしまったのです。何者かに・・・
 しかも、ふたりの死体には“首”がありませんでした。
 事件はこれで終わらず、一守家に次ぐ地位である二守家の嫡子も無残に首無し屍体となって見つかりました。
 もはや村の駐在では両手に余る難事となった事態に、それでも高屋敷は懸命の捜査を行いますが、町のほうで大事件が起こったために終下町警察署の捜査陣が割かれ、力及ばず事件は迷宮入りとなってしまったのです。
 
 で、物語はすでに亡くなった高屋敷の妻であり作家である高屋敷妙子の書き語りで進んでいきます。
 視点は、夫の高屋敷巡査と、5歳のときにもらわれて一守家の使用人になった幾多斧高。
 ラスト、最後の事件から20年後(ということは昭和40年代後半くらいか)に謎が解かれます。
 ほぼすべての謎が、ね。
 というのは、斧高が5歳のときに家に来た中性ぽい人は誰だったのか、わかりません。
 普通に考えれば家庭教師の僉鳥郁子なのでしょうが、違いますね。
 ヒントは「ぞっとするほど綺麗な、まるで小姓のような・・・」という言葉で、あくまでもミステリアスに考えればこれは男装して城から落ちたあとに首を斬られた淡媛ではないかということになります。
 そしてそう考えれば、ラストに妙子のところにやって来たのも、同じモノではないかと想像することも可能です。
 斧高は、このとき50歳近くになっているはずですからね。たぶん違うでしょうよ。
 首無し含むふたつの事件の謎は解けても、肝心要が残されましたが、これはこれで楽しいですよね。
 さあ、あなたの推理は如何に。


 
 
 
 
 

「凶鳥の如き忌むもの」三津田信三

 戦後、昭和30年代前半。
 谷間の山村から盆地の農村、沿岸部の寒村まで民俗探訪し、怪異譚を収集している作家・刀城言耶。
 前作での活躍は深い山間の憑き物村でしたが、今回は瀬戸内のある絶海の孤島が舞台となります。
 その島の名前は、兜離の浦の沖合に浮かぶ「鳥坏(とりつき)島」。
 島の断崖絶壁には、船霊の化身である大鳥様を祀神とする鵺敷神社の拝殿があります。
 大鳥様の間と呼ばれるこの拝殿で、支那事変の時分以来18年ぶりに、鵺敷神社の秘儀「鳥人の儀」が行われようとしていました。刀城言耶はツテを頼って、この秘密の儀式の立会人になることができたのです。
 「鳥人の儀」は、神主不在で巫女の系統が中心である鵺敷神社の、数代前の巫女が色々な密教、宗教を参考に再創造した儀式で、鵺敷神社および兜離の浦に災いの影がさしたときに行われるものです。
 しかし18年前に、現在の朱音の巫女の母である朱名の巫女が行ったときには、とてつもない悲劇が起こりました。
 朱名の巫女と娘である6歳の朱音、立会人の大阪の民俗研究所の学者6人の参加者8人中、儀式の途中で朱音以外の7人が行方不明になってしまったのです。
 鳥人の儀は、成功すれば巫女は大鳥様に、失敗すれば鳥女という化け物になると云われています。
 前回の儀式で唯一生き残った朱音は、隠れた物置の隙間の向こうから覗く真っ赤な目を目撃したといいます。
 はたして、18年前の「鳥人の儀」では何があったのか・・・巫女は化け物になってしまったのか?
 そして、そのときの生き残りで現在の巫女である朱音が主宰する今回の儀式は無事に成功するのでしょうか!?
 そんなわけありませんよね。
 今回も参加者は8人。美貌の朱音の巫女と、彼女に懸想する浦の青年が3人(網元の息子、医者、旅館の主人)。戦後どこからともかくやってきた神社の下働きの男、朱音の巫女の弟である青年、そして刀城言耶、もうひとりは大学で民俗学を専攻している夏休み中の女子学生。
 まず、儀式が始まってすぐに朱音の巫女が消えました。完全に遮断された密室状態の拝殿から、です。
 そして、参加者も一人ずつ消えていきます。崖から中空へと足を踏み出したとしか思えない状況下で消えている足跡・・・
 いったい島に何が起こっているのか。この謎を刀城言耶は解くことができるのでしょうか。
 アンダーグラウンドな民俗ホラーミステリーと、本格的なクローズド・サークルが融合した、傑作ミステリー。

 面白かったです。途中少し中だるみしましたが、ラストのおぞましさは最高。
 あくまでも私の主観では、前作の憑き物村より数段面白かったと思いますけど。
 登場人物は、巫女といい村の青年といい神社の下男といい前作と似たようなキャラクターが重なっているのですが、構成がまるで違いましたね。憑き物村は複数視点の一人称であり、それがトリックに使われたのですが、少しややこしかったように思います、対してこちらは徹頭徹尾、終いまで刀城言耶主観の三人称でしたね。まず、これがよかったです。
 そして内容は、絶海の孤島を舞台に人が次々消えていくという、本格的なクローズド・サークルでしたが、これも背景には民俗的などす黒い渦巻きがあって、当然ですが単なる密室ミステリーよりも奥深くなっていました。
 ラストだって、そういう流れだったから納得できるんですよね。怖かったですね。
 誰が殺してどこに消えたのか、といった問題だけじゃなくなるんです。昭和30年代前半の迷信深い地方の離れ小島を舞台としているので、こういうのもアリですし、これがまた普通のミステリーには食傷気味の頭には面白いんですよね。
 シリーズ物ですから、次も楽しみです。


 
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