「都知事失格」舛添要一

 昨日の都議会議員選挙は小池知事派が圧勝しましたが、どうなるんでしょうかね、別に興味ないけど。
 まあ、いずれにしても東京都民1300万人、東京都庁職員17万人の旗振り役となる東京都知事は重責でしょうな。
 オリンピックがあるからね。待機児童の問題も解消されていません。直下型地震の危険地域でもある。
 本書にも書かれているように、その場その場の判断だけで先をまったく考えない刹那主義の政治家といわれる小池百合子は、まさにその通りだと思いますけど、そのときどきの直感が当たれば歴代最高の知事になるかもしれません。
 おそらくそうはならないだろうし、いったんこければ路頭に迷うどころか彼女は逃げるでしょうけどね。
 もしもこければ、投票した都民も自分が投票したことに責任をもって、反省するべきです。
 ただマスコミが流す情報に感情を左右されて、刹那の判断で投票したとしても、無責任では済まされません。
 民主主義はリスクの分散ということでもあるのですよ。責任はみんなでかぶるべきです。
 何かをやっても無責任でみんな逃げてきた、その悪い国民性が先の大戦の敗北となって現れたのでしょうけど、これは日本人の宿痾かもしれませんし、全世界的にポピュリズムが台頭している昨今、これもまた必然的な歴史の流れなのかもしれませんね。どんどんバカな方向に向かって自分で自分の首を絞めるという。
 国民がこれほどバカなんだから、ある程度政治も強権的にやらざるをえんでしょう。
 左翼のおばはんは、平和平和の念仏を唱えれば中国や北朝鮮からミサイルは飛んでこないと本気で信じているのでしょうか。
 本当の基本的なところは弱者の味方は政治であり、日本を誤った方向に導く可能性があるのは官僚のほうです。

 で、本書は2016年6月にバッシングの集中砲火を受けて東京都知事を辞任した舛添要一さんの独白記。
 2014年2月に就任されていますから、わずか2年4ヶ月の在職期間でした。
 2016年3月に突如発火した舛添バッシング。高額の海外出張費から公用車の使用問題、韓国人学校の用地貸与問題など、あらゆる疑惑が吹き出しましたが、本書ではそれぞれの疑惑に答えていらっしゃいます。
 誰が私を刺したのか、なんていう物騒なタイトルの章もある。
 胸が踊りますな(笑)
 その他、首相をはじめとする自民党の国会議員から小池現東京都知事、都議会のドンの素顔まで人物評やら、未来の東京都に対する提言など、さすが一時は国際政治家として鳴らした人物だけあって、淀みがありません。
 まあ、どこまで信じれるかはともかくとしてですよ。変人には違いないでしょうからね。
 あの怪しい中国服については何も書かれていませんし、あのときの言い訳が酷すぎたので、期待していたんですけどね。
 行政の実力はあるのだけれど、政治家には向いていないのでしょうね。
 私は、このままほとぼりがさめたらテレビに出てコメントするだけではもったいない人物だと思う。
 田舎でいいので、どこか地方の首長になって、自分の理想とする都市を作り上げてもらいたいです。
 68歳だから、最後のチャンスだと思いますけど、このままではもったいない人物だと思います。
 ハッキリ言って、東京都知事がファーストクラスやスイートルーム使って当然ですから。
 スイートルームというのはSWEETルームではありません。SUITEルームです。要人の会議ができる場所です。
 それを面白おかしく喧伝したマスコミを舛添さんは痛烈に批判していますが、マスコミは商売ですからねえ。
 視聴率や部数のためにと言われますが、しょせんそんなもんじゃないですか、昔から。
 舛添さん自身だって、マスコミパワーでここまでのし上がってきたんじゃない。テレビに出てたからね。
 一番悪いのはそれに踊らされる国民。情報の忖度ができない国民。そしてマスコミも国民も無責任なまま。
 冒頭からずっとマスコミに対する批判を繰り広げた舛添さんですが、ついにラスト近くで本性を現して怒りも露わにマスコミふぜいに愚弄される国民を痛罵しているふうが見られます。
 まあ、それが本音かな。
 結局、エリートの学者なんだろうねえ、根が。だから、いじられるんですよ。東京のトップに立ったから。
 国政、あるいは地方の首長ならばこうもいじられることはなかったのではないでしょうか。


 
 
 
 
 
 
 
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「不参加ぐらし」富士正晴

 隠者と ひとはいいますなあ
 陰々滅々ではありますな 笑っておりますな
 ひとは のんきそうだといいます
 黙っておれば腸が七つ折り 喋れば胃がむかつきますなあ
 書くこと一切気に入らず 読むこと一切苦患なり
 先行き 茫々 人生 漠々
 人類の象徴は はばかりながら わしでっせ


 竹林の隠者と呼ばれた富士正晴の随筆集。
 もっとも、本書の中には「隠者と呼ばれるのは、お銭(おあし)と足(車)がないから出ていけないだけ」とうそぶいていらっしゃいますが・・・まあ、この時代では「この世嫌い」の代表格のような、ひきこもり親父です。
 1970年代後半のものがほとんどで、作者が65,6歳のときのもの。
 巻末のあとがきに、以前二冊と同じく馬場哲夫編集者に感謝する、と書かれているので、おそらく何かの雑誌に掲載されたものをまとめたもので、しかも本作で三集目となるようです。
 前の二作がどのようなタイトルなのかは調べていません。
 なにせ、私もポプラ社の百年文庫で氏の作品を読んで初めて存在を知ったくらいで、日本文学全集に収められているような文豪でもありませんし、山崎豊子や司馬遼太郎などと交流があったことからかなりの業界人であることはわかりますが、俗世間的には無名に近かったんじゃないかと思います。「豪姫」などの著名な代表作もありますが、それほど作品が多いわけでもない。まったく欲のない人に見えます。食えればそれでいいだろう、みたいな。家庭はあったようですけどね。
 まあ、変わったおっさんですわ。上の歯は5本しかなかったそうです。
 およそ40年前に書かれた随筆なのに、中国とアメリカと日本の関係に言及したところがあって、妙に鋭いなと思いドキッとしました。今、生きてたら何を言ってただろうと、気になりましたね。昔の随筆を読むのはこんな楽しみもありますね。
 竹林の隠者の化けの皮は剥がれませんでした。お見事です。

 「帝国陸軍に於ける学習・序」の通り、昭和19年6月から大陸の最前線の部隊に一兵卒として従軍した富士正晴は、人間を殺すことなく、戦時強姦もすることなく無事帰国し、1940年代後半から大阪府茨木市の竹やぶに囲まれた一軒家に住み着きました。幼い頃から徳島県の田舎、平壌、神戸、大阪と転々と住まいを変えてきた作者ですが、この竹林の一軒家を終の棲家としたようです。もっとも、本書の経過の途中で竹やぶは枯れて雑木林になり、付近にはトラック道もできたと書いてあるので、2017年の今現在ではまったく痕跡も残っていないことだと思いますが・・・
 竹やぶですからね、いたちやら蛇やら野鳥やらなんでもいる。この随筆でも触れられています。
 家の天井裏には、2メートルくらいあるアオダイショウが棲みついていたそうです(ー_ー;)
 その家で老境に入った作者は、座って本や新聞を読むかテレビを見るかしているだけ。
 たまに人恋しさのあまり深酒して長電話したりする(爆笑)
 何が竹林の隠者やねん、寂しいんやんけ(苦笑)
 まあ、隠者本人は自分は隠者などではない、と明言していますからね。
 少なくとも、悟りは開いておらんと思います。
 それがどうして変わり者のように云われていたのか。お金がなかっただけでしょうか。
 少しあるかもしらんけど、それだけではないだろうなあ。
 たぶん、ずっと読んでみたかぎりでは、人に会うというより外に出ることが面倒くさかったんじゃないでしょうか。
 何の趣味もありませんからね。散歩さえしないし。家の周辺には居酒屋どころか喫茶店もない。
 おまけに上の歯は5本しかないという、歯抜けじじいですから、億劫でしょうね他人と接するのは。
 家を訪れてくる人には、だいたい会って酒を飲んでいますから、人嫌いではないと思います。
 この世嫌いと書かれていますが、いわゆる不参加ぐらし、社会を遠目で眺めてるみたいな感じ。
 もちろん宗教はもとより、イデオロギーの類を一切信じていません。
 旧の三高(京大)中退ですから頭は相当良かったはずで、何もかもが馬鹿らしかったんだと思います。
 この頃は学生運動やらで社会が熱かったですから、こういう人はますます逆に頭が冷却化したはずです。
 新聞は4紙(読売・朝日・毎日・サンケイ)取って読んでたそうですから、隠遁の仙人ではありません。
 ユーモアもあります。というか、ユーモアでできてるような人でしょうな。
 作者が言うには、日本人は本来なら真面目くさった民族ではなかったそうなんですが、徳川幕府武士主権時代が長かったせいで、真面目で面白みがないようなことが徳とされる文化ができあがったそうです。どちらかというとお笑い芸人とか低く見がちではありませんか。これは日本人に付いてしまった悪い習慣で、真剣に真面目くさる文化のおかげで戦争になってしまったのかもしれんと。貧乏でもいい、もっとユーモアを持って生きようではないかと。江戸期以前の日本には狂言や随筆などの柔らかいユーモアが文化として根付いていたそうです。戦国時代の大名だって、そんな堅苦しかったわけじゃないですから。
 さすが、竹林の隠者。

 人間の一生は、人生を押し読みし、生き間違いをし、ついに物知らずに終わる。
 あに楽しからんや。


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「社会人大学人見知り学部卒業見込」若林正恭

 漫才コンビ・オードリーの若林さんのエッセイ。
 2010年からダ・ヴィンチに連載されていたものです。
 2008年にM-1グランプリで準優勝するまで、誰にも見向きもされなかった期間は8年間。
 コンビ解散の危機を乗り越え、ようやく30歳になって爆発的にブレイクしたわけですが、あまりにも下積み生活が長かったせいか、トンネルを抜けた先には、すでに自分の感覚が社会の通念から離れていることに気づいたのです。
 つまり、社会不適合といいますか。同い年の方は会社でバリバリに働いている頃ですから。
 本書は、若林さんが売れない地獄の20代を振り返りながら、ようやく一般社会人としての礼節、感覚をわきまえるまでの日々が、面白おかしく、ときには切なく綴られています。

 面白い。いい本です。
 ネガティヴにならないためには、何かに没頭することという若林さんの悟りの境地には賛同。
 忙しくしてたら、ネガる暇がありません。暇だから悪い方向に考えすぎてしまうのです。
 最後はしんみりしましたわ。放尿のところと春日の幸せのところ。
 春日はほんとすごい人間ですな。
 他人の物差しなんて関係ないんだろうね。
 どれだけ貧乏だろうと、ゲームができて毎日エロサイトのサーフィンができれば幸せだと。
 ほんまうらやましいわ。どないやねん。
 私、この2年ほどはオードリーのオールナイトニッポンをほぼ毎週欠かさず、聴いております。
 ラジコのタイムフリーですけどね。ジョギングしながら聴いてる。
 めちゃくちゃ面白いです。少なくとも木曜日の小さいオッサンよりは、よほど面白い。
 おそらく、私の1週間の笑いの半分ほどはオードリーのラジオに費やされているんじゃないかな。
 テレビだとあまりパッとしないんですが、ラジオだと若林さんの投げやりトークが冴えるんですわ。
 今だと春日さんが数年前よりだいぶおとなしいので、トーク番組としてもバランスがちょうどいいです。
 笑う門には福来たるといいますが、笑えば人間は幸せになります。循環がよくなります。
 ですから、若林さんは十分、人をしあわせにしていると思いますよ。
 少なくとも、私は感謝しています。オードリーというコンビを忘れることはないでしょう。

 しかしまあ、8年間もよく耐えたもんですねえ。
 いつかラジオで「春日がいたから俺の今がある」と言ってましたが、逆のことも言えると思います。
 ですから、若林さんの相方が春日さん以外だったらどうなっていただろう? という仮説はきっと成り立ちません。
 春日さんがいまだに風呂なしのアパートに住んでいることは有名ですが、若林さんもかつては風呂なしのアパートに住んでいて、真っ赤のシャツしか着る服がなかったので不動産屋から「赤シャツ」と呼ばれていたそうです。
 それがテレビに露出するやいなや、引っ越しのために訪れた不動産屋の態度が変わったという場面が、まず若林さんが社会を認識した第一歩だそうです。
 M-1で準優勝したことにより、世界が一変し、それから若林さんは様々な社会の返礼を受けることになります。
 飲み会嫌いは有名ですね。
 事務所の飲み会のときに、ひとりトイレにこもってシド・ヴィシャスを聴いていたそうです。
 自意識過剰というか、世の中を斜めに見過ぎていたのではないかと思います。
 でも本当に人間が曲がっていれば、8年間もそうした生活が続いていないと思うんですよ。 
 いくら笑いをとることが中毒になったとしても。
 本もけっこう読んでいますし、自分のことをよくバカだからと言ってますが、相当頭がいいと思います。
 最近ちょっと太り過ぎて顔がスコーンみたいになっていますが、童顔ですから、もうちょっと痩せればオバサン受けして、45歳までなんて言ってないで、60歳まではいけますよ、若林さん。


 
 
 

「正直に語る100の講義」森博嗣

 森博嗣のエッセイ「講義シリーズ」第5作目。
 著者が日々疑問に思ったことや常々感じたことなどが、100題それぞれ2ページで語られるスタイル。
 なかなか特異な本です。
 私が思うには、100の講義には3種類あって、「そうか、そうだったのか」と初めて気付かされるもの、「なるほどねえ」と改めて考えさせられるもの、「ふーん」と大して面白く感じられないもの、に分けられるかと思います。
 今回は残念ながら、「ふーん」と寝てしまうような講義が多かったかもしれません。前に比べるとね。
 前のはけっこうインパクトあったからなあ。
 どの講義だったか忘れましたけど、応援しているスポーツチームに対する考え方みたいなテーマがあって、この方おそらくスポーツに疎い理系文化会系だと思うんですが、スポーツが全般的に好きである私をして気づかなかった真実を捉えており、その後の心の持ちようで大変勉強になったとことがありました。他にも、何かにつけて「森博嗣はこう言ってたな」と思い出すことが多いです。
 原発問題とか社会に関することに対する切り口は鋭いですからね。
 安全性さえ確率されるならば核燃料の廃棄施設はうちの家の庭でもいい、と言っておられたのには感心しました。
 その通りかと思います。民主主義はリスクの分散であって汚いものはよそに放れではないのですね。
 本作が私にとってイマイチのように感じたのは、おそらくこのような社会的なテーマが少なかったからでしょう。
 あるいは科学的なことも。もっと重力波には触れてほしかったと思います。
 言葉遊びというか、言葉を記号ではなく暗号で捉えられているのかもしれませんが、そっち系の「正しい日本語」ネタが多くて、もっとも森博嗣ファンにはそっちのほうがウケるのかもしれないので、私が少数派なのかなあ。
 セメントの先生ですから、次作(あるならば)では福岡の道路陥没事故については絶対に触ってもらいたいですが。

 それでは本作でピンときた文章を抜粋。
 ・可能性があるのは、今売れていないものだ。売れていないものをよく観察すると、そこから売れない理由を学ぶことができるし、ここをもう少しこうやれば売れたのにというアイディアも思いつく。売れているものではなく、売れていないものを見よう。
 ・将来に不安があると答えた人が多い、というアンケートの結果について。将来への不安がない人間なんて、かぎりなく馬鹿に近いと思われる。
 ・小説を書いてみようと最初に思った時、僕が一番にしたことは、座り心地のいい椅子を買うことだった。準備をするほど余裕が生まれ、余裕はいい仕事を生む。
 ・(アーティストは)良いなと感じた作品には近づかない方がいい。なぜならその良さは既に世に出ているからだ。
 ・「自分の目で見ないと信じられない」という人ほど、見て騙される。自分の目を信用してもいいのか?
 ・どこへ行っても「お忙しいところ、わざわざありがとうございます」と挨拶をしてくれるのだが、そこにいる誰より僕は暇なのだ。みんなもの凄く忙しいのは、見ればわかる。だから、「私が忙しいところへ、ありがとうございます」が正しいと思う。
 ・「空き巣に注意」というポスターがあったが、空き巣に注意をしているのは泥棒ではないのか。「空き巣狙いに注意」という意味だろうが、それでも空き巣になったら家人はいないのだから。誰が注意するのかよくわからない。
 ・優しさの測り方を教えよう。簡単にいえば約束をどう実現するか。たとえば待ち合わせをしたときに、何分前に来るかで貴方に対する優しさが測れる。時間は金よりも労力よりも高い価値を持っている。その高価なものを貴方に差し出せるかどうかで、優しさが測れる。遅刻は論外。
 ・なんでも頭を下げておけばよい、という卑屈な文化が日本にはある。たいていの頭はそういう文化で下げられているだけで、本心から謝っているわけではない。
 ・世界遺産、ノーベル賞、アカデミー賞、ミシュランガイドなど、欧米はお墨付きを後進国に与えることで、欧米が世界の支配的立場にあることを維持している。日本や中国や韓国は、金はあるけれど名誉が作れない。だからこういった勲章を高く買わされている。そういう図式である。いつまでも喜んでいるようでは、結局はオリジナルの文化は、外向けに飾られ、内側は綻びるだろう。

 要約すれば、こんなところですかね。
 一番は「優しさの測り方」。
 待ち合わせでわかる? と最初は怪訝に思いましたが、過去の経験に照らし合わせてみれば、その通りかもしれないと思いました。相手も、もちろん自分もです。どれだけその人のことが気に入っていようとも、その人が自分にくれる優しさには関係がないのです。八方美人に見えて、実は誰に対しても優しくない人間もまたいるということなんですね。
 思い当たります。


 
 
 

「他者という病」中村うさぎ

 ナルシズムという病と、自意識過剰という罪。
 この両者が「私」を形作っている限り、我々は常に他者を求め、他者に期待し、他者の承認を欲しがり続ける。
 そして他者に拒絶されたり否定されたりするといたく傷つき、相手に激しい怒りや憎悪をぶつけるのだ。
 だが、他者がいないと、私は自分の輪郭を維持することができない。
 他者との比較によってのみ、私は自分が「人とは違う私」であることを発見できるからだ。
 私にとって「他者」とは己を映す鏡であるが、ただしそれは己の姿を極端に矮小化したり誇大化したりする歪んだ鏡なのである。


 著者の中村うさぎさんは、2013年の8月中旬、突然の病(100万人に1人の難病だったという説もある)に倒れて入院、約3ヶ月半の入院の間に一度の心肺停止と二度の呼吸停止状態を経験しました。
 死にかけたというか、一度死んでおるのです。
 幸い奇跡的な回復により退院しますが、脳に作用して人格を変えてしまうホリゾンという薬の副作用により、「私が私でなくなっていくのだろうか?」という恐怖を抱えながら、経済的支柱であった週刊文春の連載とMXTVのレギュラーを失い、鬱のどん底で「あの時に死んでいればよかった」とせっかく生き返ったのに死んでしまいたい気持ちをどうすることもできないまま、自殺未遂を決行するまでに堕ちていく、そのときの自身の心情が赤裸々に語れているエッセイが、本書です。
 時系列に沿って9つの章で構成されていますが、最初のほうは痛々しいです。
 薬の副作用のためなのか猜疑心が強くなって攻撃性が増したそうで、各章の最後には後から自身の文章を振り返った回想録が載せられており、自分が自分でなくなるとはどういうことかという考察もなされています。

 中村うさぎという人を私は週刊文春のコラムでしか知りません。
 それも、ずいぶん前に数回読んだきりで、面白いとは思っていませんでした。
 本書に目を通して、はじめてこの方が、重度の買い物依存症でホスト狂いでデリヘル嬢をしていた過去があったことを知りました。画像を検索してみましたが、そういや観たことあるかな程度でした。
 もちろん本書の重要な核である「5時に夢中」という番組でのトラブルなどは、まったく知りません。
 ですので、良かったのか悪かったのかわかりませんが、先入観なしで読みました。

 死んだ瞬間は、まったくの虚無であったそうです。絶大なる「無」と書いてありますね。
 普通ならば、その体験から新たな価値観を見つけそうなものです。
 しかし、生き返った著者は、その後のトラブルや体の困難から、死という無は生という有より幸福であり、苦界からの救済ではないかと思いつめるのです。あのまま死んでいればよかった、と。
 どうしてそのようにこの方は思うのか、それこそ他者との関係にがんじがらめに縛られた苦しみから逃れるためです。
 恐るべき自意識過剰なのですね。ナルシストなのですね。傷つきやすいのですね。
 頭が非常に良い方だと思うので、相当、生きづらいと思います。
 結局、ようやく足が立つほどに回復すると、ドアノブで首を吊って自殺を図り、失敗しました。

 ドストエフスキーの小説に「地下室の手記」というのがあります。
 あれと同じように、著者のように自意識が特に強い方は、目に見えない所に隠れて住むようにすればいいのです。
 もちろん、たとえですけどね。
 目立ちたがり屋というのは、高転びに転びますから。永遠にトップにいることはできません。
 偉そうなことは言えませんが、この方の視点というか思想からは、宇宙という観念が抜け落ちているように思います。
 宗教ではありませんよ、物理学ですね。
 生き物なんてものがどうして、宇宙にいるのかわかりません。
 人類など、宇宙にとってはいてもいなくても変わりありません。
 あまりにも早い一生を終えて消えてなくなく我々が、生きる意味など問うても仕方ないのではないですか。
 飯を食って酒を飲み、うんこして寝ていればいいのです。



 
 

 

 
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