「不発弾」相場英雄

 あれから20数年。
 水面下で膨らみ続けてきたバブル期の負債が、ついに爆発する!?
 社長から社長へと密かに受け継がれきた“不発弾”の行く末・・・
 戦慄の金融ミステリー( ゚д゚ )彡
 
 ちなみに、読めばわかりますが、三田電機は東芝、ゼウスはオリンパス、ノアレはヤクルトがモデルです。
 内外情報通信社の相楽は、実在した闇のフィクサー・石原さん(「黒幕 巨大企業とマスコミがすがった裏社会の案内人」伊藤博敏)がモデルで間違いないかと思います。
 東芝やオリンパスはともかく、ヤクルトは生々しかったですわ。
 覚えている方もいるかもしれませんが、堅実経営で借金がなかった会社が、バブルで財テクに狂い、確か大蔵省から天下った金融のプロが1千億円もシコって(損して)しまったのは厳然たるノンフィクションですからね。
 ああ、こういう感じで相場での負けが認められずに、どんどん雪だるま式に負債が積もっていったんだろうなと。
 博打は負けを認めた瞬間に地獄に落ちる、ならば負けを認めず続けたらいい。
 いやあ、怖いね。
 最後の方は、ここでも書かれていますけども、自分が何をしているのかわからなかったんじゃないですか。
 でもまあ、ヤクルトはまだましですよ。
 思い切って清算して、「こんだけ損しました。すみません」ってそのときは地獄だけれども、立ち直れたじゃないですか。
 もちろん、あの頃は潰れた会社や銀行が続出しました。
 問題は、負けを認められずに損失をひた隠して、何かの拍子に爆発して周囲に多大な迷惑をかける巨大な不発弾を抱えたまま、現在に至っている会社です。どうしてこんなことがあり得たのか? 本作の肝はそこでしょうね。
 ごまかせるものは、ごまかそうという風土。
 クール・ジャパンなどと偉そうなこといっても、この国は一面でそういう風土も持っているのですよ。
 私が社長のあいだにこんな恥をさらせられない、私が財務責任者のうちは表に出せるわけない、先へ先へと順送りした不発弾の行方は・・・

 物語の進行ですが、視点はふたりいます。
 ひとりは、ナンバーシリーズに登場した、警視庁捜査二課第三知能犯捜査係統括管理官の小堀秀明。
 34歳のキャリア警察官です。彼のミスにより、ナンバーシリーズの第三知能犯捜査係はいったん解散したこともありました。彼が二課にきて2年半と書かれているので、「リバース」からしばらく経ったころでしょうか。
 ナンバーシリーズの主人公だった西澤はでてきません。今井春彦巡査部長と島本という元SITのベテラン女性警察官が出てきますが、私の記憶にはありません。いたかな? まあ、シリーズは関係ないですけどね。
 小堀は、三田電機(東芝)の不適切会計を巡る騒動を見て「何かがおかしい」と思い、立件すべく捜査を開始します。
 普通ならば上場廃止されるはずの粉飾決算なのに、どうしてそういう声が上がらないのかと。
 その過程で浮かび上がったのが、もうひとりの主人公である金融コンサルタントの古賀遼こと古賀良樹。
 九州の寂れた炭鉱町出身である彼は、幼い頃に父を落盤事故で亡くし、自堕落な母親の元を離れ、妹を呼び寄せるべく東京の証券会社に就職して懸命に働いていました。しかし、母に売春を唆されるなど劣悪な環境に耐えられず妹は自殺してしまいます。憤怒に燃えた古賀ですが、やがてバブル期に入り、豊富な経験と人脈も得て業界で成功します。
 そして先見の明のあった彼は、バブル崩壊をいち早く感じ取り、落ち込む証券業界を逆手にとって、金融コンサルタントとして独立し、似合わぬ財テクですっかり財務が傷んでしまった企業を相手に“債務掃除人”というべき金融界の闇の住人として君臨していくのです。その手法は・・・

 今だと時価総額とかよく聞きますけど、あの頃は日本は時価会計ではありませんでした。
 株を100億円で買って、値段が下がって50億円になって50億円の含み損を抱えても、帳面では買ったときの100億円の有価証券のまま仕分けすることができたのです。
 もちろん、帳面ではそれでも調べればすぐわかりますから、財務責任者は「どうしたもんかいの」と悩みます。
 損は損だからね。いずれバレる。
 そこで、これに目をつけた外資が、その負債を飛ばす方法を有価証券評価損を抱えた企業に伝授したのです。
 私は頭が悪いのでよくわかりませんが、その損をしている口座をそっくり外資の口座に移し、新しいファンド(仕組債)の中に組み込んでわからなくしてしまうのです。例えるならば、腐ったネギでも鍋料理に入れてしまえば目立たず食えてしまったみたいな。
 運用損単体ではすぐわかりますが、複雑なデリバティブ商品、金融派生商品に紛れ込ませることによって、発覚を遅らせることができるということではないでしょうか。
 それでもいずれ破裂する、ならば、企業買収に巻き込んでしまうというのもアリですか。
 本来ならば500億円の価値しかない企業を、運用損50億円を紛れ込ませて550億円で買えばいいのです。
 これも調べればバレますが、調べなくちゃわからないでしょう。表面上は。
 今朝の新聞にオリンパスのことが載ってましたが、似たようなことをしていたんじゃないですかね。
 バブルが弾けて20年以上経ちますが、いまだに日本のどこかで不発弾に怯えながら余生を送っている方がたくさんいらっしゃるのかもしれません。爆発させていたほうが、後腐れなくてよかったんじゃないですか?
 タイムリーな本でした。面白かったです。


 
 
 
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「メガバンク最終決戦」波多野聖

 うん、面白かったですね。ちょっと軽すぎるキライはあるけれども。
 スリル満点のエンタメ系金融ミステリー小説です。
 作者は、様々な金融機関で資産運用業務に携わった経験を持つ波多野聖(はたのしょう)さん。
 文章とかの感じや雰囲気が、海堂尊の書いたチームバチスタの栄光に似ています。
 つまり、専門の小説家が題材を取材して書いたものではなく、その題材の専門家が小説を書いた、というパターンです。
 軽さは、おそらくここからきています。
 しかし、このパターンは、小説の筆力においては限りがありますが、ハマればその道の専門家だけに余人の追従を許さぬ面白いものを書くことが出来ます。筆力の拙さをじゅうぶんカバーできるのです。
 本作においては、カバーどころかそれを上回る出来だったのではないかと思いました。
 それは職場の雰囲気の書き方とかに現れています。伝説のディーラーである桂の仕事場とか、相場の経験者でなければわからないものが読者に伝わってきたように思いました。
 反面、厳しいことを言えば、どうしても荒いんですよね、文章と文章の間に深みがないから。
 ですから、本来ならもっと高揚できるはずの、ラストのカタルシスもサバサバしたものになってしまった。
 専門の小説家ならば、ここが見せ所とばかり、ガツーンとキメてきたでしょうね。
 まあでも、それは仕方ありません。
 明治維新のときから秘密裏に存在しているという財務省の裏組織をエッセンスとしてまぶしてくれましたから、よしとしましょう。
 彼が生きているのならば、続編の可能性もありますし。

 ざっと紹介。
 1990年代、バブル崩壊とそれに続く金融危機によって多くの金融機関が破綻、生き残りをかけた合併が繰り返され、メガバンクが誕生してきた。“TOO BIG TO FAIL”(大きくなれば潰されることはない)である。
 メガバンク系都市銀行のやたら長い行名も、もはや我々の目に慣れてしまった。
 しかし、そこで働く銀行員たちが、実は自分の出身銀行に縛られていることに、我々の思いが行くことはない。
 たとえばまず4つの銀行が順々に合併したとして、一番規模の小さかった銀行の行員は今何をしているのだろうか。
 肩身が狭いはずなのである。出世コースから外れている可能性が大なのである。そういうことに、我々の思いが行くことはない。
 この小説の舞台は、4つの銀行が合併して出来上がった東西帝都EFG銀行(TEFG)。
 「帝都」という部分、これを「み☆びし」と置き換えて読んでも問題ありません。
 TEFGは、日本経済の顔といえる財閥帝都グループの扇の要「帝都銀行」と、外国為替専門の国策銀行を出自とする東西銀行が合併し、さらに関西を地盤に全国展開していた大栄銀行と中部地方を基盤とする名京銀行が合併した「EFG銀行」を合併吸収して出来上がった、世界最高の格付けを持った日本最大のメガバンクである。
 しかし、役員総勢30名のうち帝都出身者が22名。帝都に非ずは人に非ずの風潮が跋扈し、内情は帝都出身者が支配していた。
 頭取の西郷洋輔は、もちろん帝都出身であり、長ったらしい行名を元の帝都銀行に戻すことを念願としていた。
 帝都の旗印を取り戻すのである。機は熟している。しかし、財務省や金融庁がおいそれとそれを認めるはずがない。
 バブルで辛酸を嘗めたのは銀行ばかりではなく、大蔵省もまた律令制以来の名前を失ったばかりか、こちらは合併とは反対に財務省と金融庁に分割されて、裁量行政の幅を狭められ、大きな牙を抜かれていたのだ。
 しかし、西郷は悲願のために、禁断のパンドラの箱を開けてしまう。
 帝都銀行の名前と引き換えに、官僚と政治家が隠密裏に出した条件、それは40年債という超長期の国債購入であった。東京オリンピックのインフラ整備資金である。総額は5兆円。
 西郷頭取はこれを飲んだ。特定の役員には知らせずに・・・
 そして購入から一週間も経たぬうち、何の背景もないままに突然、ニューヨーク市場で日本国債が暴落した。
 どこからともなくTEFGが国債を大量購入したという噂が流れ、TEFGの株は連日ストップ安、取り付け騒ぎまで起きてしまう。
 損失は4兆円に達し、自己資本の倍を超えた。このままでは銀行が破綻してしまう。
 東西銀行出身で、伝説のディーラーとして名を馳せた桂光義専務は、必死に銀行を救おうとする。
 なんとしても金融庁に、特例で損金処理の免除を願う以外に道はない。国債を償還時まで会計処理を延期するのだ。それに、頭取の独断専行とはいえ、元はといえば、この案件は行政側から持ち込まれた話なのだ。
 だがしかし、いったん了承されたはずの会計処理の先送りは、アメリカからの横槍によって暗雲が立ち込める。
  そのような特例を認めることは、グローバルスタンダードではない、というのだ。
 さらに世界の市場で暗躍するハゲタカ・ヘッジファンドが虎視眈々と日本最大のメガバンクの屍肉を狙いだした・・・
 はたして、桂はTEFGを救えるのか!?
 
 桂のほかにもうひとり、この銀行危機物語にはキーマンが登場します。
 二瓶正平。41歳の総務部部長代理。
 彼はTEFGを構成する合併した4つの銀行の中で、一番小さな名京銀行の出身です。
 彼の銀行員人生はまさしくドミノ倒しのようでしてね。自分のとこより大きな銀行に飲み込まれることの繰り返しです。
 TEFG本店の7千人の行員のなかで、名京銀行出身者は彼を含めて15人しかいません。
 絶滅危惧種と揶揄されています。それでも、「帝都に非ずは人に非ず」と言われる中、ここまで生き残ってきたのだから彼には能力があるわけです。バブル崩壊から我慢に我慢を重ねた銀行員人生を歩んできた二瓶。そんな彼がTEFGの救世主になるかもしれません。奥さんがパニック障害を患っているという設定も、彼のキャラクターに深みを与えているように思います。


 
 
 
 
 
 
 
 
 

「座礁 巨大銀行が震えた日」江上剛

 「本当にこれは問題のない融資ですか。本当に皆さんはそう思っていますか」
 渡瀬は役員たちを強く見つめた。頭の中が熱くなってきた。
 「こんな融資を私は教えられたことはありません。きちんと資金使途を確認して、担保を取って、融資して、そして返済される。融資はもっと厳格なものです。生きて使われ、きちんと返済されてこそ融資だとあなた方が私たちに教えてくれたのではありませんか。それなのに資金がどう使われたのかもわからない融資が本当の融資ですか」


 1997年に発覚した第一勧業銀行(現みずほ銀行)による総会屋事件の内幕を描いた金融サスペンス。
 銀行の名前をはじめ実在した人物の名前は変えられていますが、ほぼ実話のドキュメントです。迫真です。
 なぜなら、作者である江上剛こそ本作の主人公である渡瀬正彦その人なのですから。
 彼は、事件発覚当時の広報部次長であり、銀行の門番としてマスコミに対応したばかりか、序列を超越して会長や頭取に物申したり、東京地検の強制捜査で激震が走った銀行内部の混乱収拾に尽力しました。
 頭取会長経験者を含む経営幹部の11人が逮捕され、一人が自ら命を絶ったほどの事件です。
 第一勧銀が潰れるんじゃないかと言われたほどです。
 事件の概要は「会長はなぜ自殺したか」読売新聞社会部に詳しいです。本作と対で読んで+アルファです。
 自殺した宮崎邦次相談役は、ここでは川本矢一という質実そのままのキャラクターで登場しています。
 また、「黒幕 巨大企業とマスコミがすがった裏社会の案内人」伊藤博敏も関連しています。
 その本の石原俊介が、本作で渡瀬に東京地検特捜部の強制捜査の執行日(1997年5月20日)を教えたりなど、混乱の中で重要な情報をもたらした川室謙三という人物として描かれています。
 まあ、当事者だからこそ書けたことがある代わりに、当事者であるからこそ書けなかったこともあるのは事実でしょうね。
 東京地検特捜部の家宅捜索の模様は、迫力がありましたけども。
 あれなんて、実際にその場で立ち会ったからこその緊迫感がありましたよ。小説家の想像だけではこうはいきません。
 都市銀行が家宅捜索を受けるのは初めてだったそうですから、ブルいますよね。
 日頃威張ってる部長が「おい、お前! こっちへこい」と係官に別室に連れ込まれたりして、やっぱ地検は警察とは違うなあ、迫力が。女子行員のロッカーの私物をぶちまけたり、シュレッダーで刻まれた文書を元通りにしろと命じたり。挙げ句の果てに、押収物件の山のようなダンボールを積みこむのを手伝わせたり(笑) 警察だったら、銀行マンに対してはもちっと丁寧じゃないですかねえ。
 でもまあ、この事件が機というわけではないですが、銀行に対するイメージは今ではあまりいいものではありませんね。
 半沢直樹でもありましたけども、資本主義社会で必要不可欠なバンカーという崇高であるべき存在が、何かいつでもブラックやグレーなものに変わってしまうのが当たり前のように思えます。
 第一勧銀の場合は、1971年にふたつの銀行が合併した後のたすき掛け人事(人事の公平化)なんかも原因でしょうけども、問題先送り体質といいましょうか、突っ込んでものを言える体質がなかったんでしょうね。連綿と続いた事なかれ主義が、呪縛を生んだ。そりゃまあ、暴力は怖いですけどね。か弱い一般市民に対しては高圧的であるのに、反社に対しては言いなりで金を出すじゃあ、言い訳は聞けませんよね。

 少し導入。
 1996年7月。大洋産業銀行広報部次長である渡瀬正彦の元に、ひとりの新聞記者がやってきた。
 この男は、驚くべきものを持っていた。それは太陽産業銀行が総会屋に融資したことを示す、不動産登記簿謄本だった。
 驚いた渡瀬が総務部長である川田大に事情を聞こうとすると、普段は優しい川田が「きみに説明する必要はない。きみが知る必要もない」と拒絶した。
 融資が発覚すれば、大洋産業銀行は総会屋という反社会的勢力と取引しているとして世間の大きな糾弾を受けることは間違いない。連日マスコミに追求され、銀行の信用は完全に失墜する。
 渡瀬が独自に調査したところ、総会屋である富士倉雄一の弟に75億円もの巨額の融資がなされていた。
 しかも、担保さえまともではない。融資の返済は延滞している。とても正常な融資と言えないものだった。
 なぜこのような融資がなされたのか。誰もが口をつぐむ今、取引の詳細は不明である。
 そしてそこには、大洋産業銀行が発足して以来の反社会的人物との禁断の関係、初代頭取、会長の時代から連綿と続く呪縛の歴史が隠されていたのである・・・


 
 
 
 
 

「スパイラル ハゲタカ外伝」真山仁

 「レッドゾーン」と「グリード」のサイドストーリーというか、東大阪の町工場「マジテック」とTAM(ターンアラウンドマネージャー)として専務に就任した芝野健夫の企業再生の物語。ほぼ舞台は大阪のみで進みます。
 別にレッドゾーンもグリードも覚えていなくても、大丈夫ですね。
 グリードはね、私もさすがに覚えていますよ、2008年のリーマン・ショックに題材をとった金融サスペンスでしたね。
 ジョージ・ソロスに「ポンドは高すぎる」とコケにされて一日に公定歩合を2回変更した末、大敗北を喫して世界に大恥を晒し、それ以来引きこもりニート化したイギリス金融界が、リーマン・ショックに乗じてソロリソロリと石橋を叩きながら憎きウォール街に忍び寄ったのはいいのですが、危うく開けてはならぬパンドラの箱をシティに持ち帰る危機に瀕しましたな(爆笑)
 グリードは面白かった(・∀・) 真山仁の小説の書き方が巧くなったことを実感させる作品でした。
 レッドゾーンは、上海の買収王賀一華が日本最大の自動車メーカーであるアカマ自動車にTBOを仕掛ける話でしたが、細かいところまでは覚えていません。
 本作を読んでいれば、今までのハゲタカシリーズの流れや登場人物は自然に思い出せます。
 でも私の場合、鷲津の創業したホライズン・キャピタルの新しい経営陣のことはまったく覚えていませんでした。
 ホライズンとえいば、鷲津と彼の彼女のドイツ人と、死んだアメリカのボンボンでしょ。ところがもう彼らはいません。
 本作でマジテックを買収しにやってくる社長のナオミ・トミナガって誰でしたっけ?
 出たんだよね、どっかで? まったく記憶にないですなあ、残念ながら。
 まあでも、忘れてしまったものは仕方ない。
 そんなことは関係なく、シリーズから独立して楽しく読める作品になっていると思います。

 少しあらすじ。
 1980年代の船場、鷲津と藤村の大昔の出会いや芝野の銀行員時代はともかく、本編のスタートは、本作の主人公である企業再生家・芝野健夫が、2年半の間懸命にその再生に尽力した家電メーカー曙電機のCROから、東大阪の町工場「マジテック」に転職するところから始まります。大企業から町工場へ、その背景には芝野がUTB銀行の船場支店時代から世話になったなにわのエジソンこと藤村登喜男マジテック社長の突然の死がありました。
 藤村は持ち前の器用さと柔軟な発想を武器に、電気電子機器関係で数々の発明品を創り出し、時には海外からも注文がくるという“天才”でした。
 大黒柱である藤村亡き後、当然ながらマジテックは苦境に立たされます。
 従業員は、社長の浅子、次男の望、熟練工の桶本、桶本の後を継ぐ元ひきこもりの田代の4人。
 売上は3億円、借金は2億4千万円。不況で激烈な下請けいじめが続く中、ここに芝野が専務取締役として入社したのです。
 しかし、日本で有数の事業再生家がきたといって、状況はすぐに改善するわけではありません。
 ましてや大企業の水に慣れてしまった芝野にとって、大阪の町工場の社会は異世界でした。
 しかし、マジテックにはなにわの天才藤村が残した遺産がありました。
 難病患者用の自立支援機器や、次世代クリーンディーゼルへのヒント、そしてどこにも負けない金型製造技術・・・
 そして、ロボット工学者久万田五郎ら、藤村を慕った技術者たちが、マジテックを救おうと立ち上がるのです。
 一瞬、芝野率いる新生マジテックは、大型案件の受注など、起死回生を遂げたかに見えました。
 が・・・2008年9月、世界を震撼させた大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻倒産によるリーマン・ショックが発生。
 UTB銀行時代に芝野が首を切って現在は大阪の信用組合に籍をおく不良金融マン村尾は、芝野憎しの想いからマジテック瓦解の金融工作を開始し、そこに目をつけたアメリカのノンバンクは不気味に立ち回り、ついにハゲタカファンド、鷲津なき後のホライズンキャピタルまでが、大阪の町工場に過ぎないが様々な特許を持った宝の山であるマジテックに食いつこうと忍び寄ってくるのです・・・
 危うし、マジテック!!

 藤村の長男で血を受け継いだ技術屋でありながら跡を継ごうとしなかった朝人と、望、浅子、芝野が一堂に会した会話は、どれだったかは忘れましたが、どこかで同じシーンを読んだ覚えがあります。
 巻末に書かれているように、レッドゾーン、グリードに登場したマジテック関連の出来事を主題にして大幅に加筆修正したのが、本作なのです。
 大阪の信組や外資などが入り乱れる金融劇も面白いですが、読んでいるうちに気づかされるのは、この小説は日本の中小企業の生き様にずばりスポットを当てたものであるということです。
 ものづくり大国と言われるこの国を支えているのは中小零細企業であり、彼らのたゆまぬ努力と我慢強さが、日本経済を下支えしているのです。彼らこそ日本工業の宝なのですね。
 景気が良いといっても大企業だけでは、いずれこの国はものづくり大国の地位を捨て去ることになるでしょう。
 そして、こうした恵まれぬけれども確かな技術を持った日本の町工場を外資は常に狙っているのです。
 規模や相手は違いますけども、村上ファンドが最近、大阪の黒田電気に何やらしておるでしょう。あれを思い出しました。
 頑張れ! 日本の町工場!


 
 

「不祥事」池井戸潤

 今年、Jノベルコレクションとして新調刊行されましたが、元は2004年の小説です。
 半沢直樹シリーズより前(直前)に書かれていますから、池井戸潤の初期作品と云ってもいいかも。
 銀行の支店を指導する臨店チームの2人(相馬健、花咲舞)を中心に展開される連作金融ミステリー集。
 二段組30ページ強のお手頃で読みやすいボリュームの作品が8篇。
 専門的な銀行の業界用語の他は、別にややこしいところもないので、すぐ読めます。
 それぞれの話も、思わずのめり込んでしまうのもあれば、退屈なのもあり。池井戸潤のレベルから云えば中の下かな。
 ただ、それぞれの話しのつながり具合がとてもいい感じなので、ラストでは、ああそうなったかと、連作ではありますがひとつの長編を読み終えたようなすっきり感がありました。
 気になるのは、本作の舞台が東京第一銀行という都市銀行であること。
 半沢直樹シリーズの東京中央銀行は、東京第一銀行と産業中央銀行が合併して出来たメガバンクです。
 半沢や頭取の中野渡は産業中央銀行出身で、不良債権も多く香川照之扮した悪徳役員もいたのが東京第一銀行。シリーズ通して旧S(産業中央派閥)と旧T(東京第一派閥)の派閥争いが根底にあるのは周知の通りですね。
 ですから、半沢シリーズに繋がるものはないかと、けっこう気にしながら読みましたが、登場人物等リンクしているものはないようです。東京第一銀行がかなりブラックだというのは、同じ認識でしたが・・・花咲舞とか出したら面白かったと思うんですがねえ。いや、そうしたら半沢直樹の倍返しもかすんでしまいますか。花咲のほうが強いでしょうね。

 では、簡単にあらすじ。
 この小説によくでてくるテラーという言葉は、銀行の窓口係のことです。カウンタースタッフですね。
 相馬健は、2ヶ月前に転勤してきた本店事務部調査役。かつては大店の融資部で名を馳せたバンカーでしたが、出世競争から落ちこぼれ、5年越しで念願叶って本部調査役の椅子を手に入れました。少しぼんやり型。
 花咲舞は、臨店チームのためにセレクションされた凄腕の花型テラー。跳ねっ返りでズケズケと物を言いますが、正義感が強く、相馬から「狂咲」と呼ばれるほど怒り狂う一幕もある、美貌の中堅女子行員。
 このふたりが、事務部臨店チームとして、営業課の事務処理に問題を抱える支店を個別に指導していきます。
 営業課の事務処理とは、窓口業務のことです。融資部に対する臨店チームとはまったく性格が違います。
 行く先々で色々な問題、罠、ミステリーが待ち受けているのですが、東京第一銀行内部で強行的な改革路線を推進する最年少の執行役員、真籐毅企画部長の派閥を仮想敵として物語は展開しています。
 
「激戦区」
 各銀行がしのぎを削る激戦区でライバル行に惨敗している、自由が丘支店の営業課は惨憺たる内容だった。口座相違2件、現金紛失1件、裁判沙汰になった誤払い1件・・・etc。しかし、12人いる営業課スタッフの能力は予想したより低くない。相馬と花咲は、最近相次いでいるベテランテラーの退職が事務過誤が多発している原因と推測する。そして、その裏には、支店幹部による“コストカット”のための、ベテランいじめがあった。
「三番窓口」
 将来の頭取候補と目される真籐企画部長の派閥だった自由が丘支店の矢島支店長が、臨店チームに成敗された。
 同じ真籐派閥で矢島の同期だった神戸支店副支店長の紀本は、仇を取るべく燃える。関西指折りの大店・神戸支店は半年で重要過誤が2件。そのミスは三番窓口を担当する1年目の行員、田端恭子が原因だった。自由が丘の仇を神戸で・・・相馬と花咲を迎えた、口座相違の罠!
「腐魚」
 老舗百貨店ワンマンオーナーの伊丹清吾は、真籐が自ら応対するVIPである。伊丹百貨店は、融資額1千億円の優良取引先であり、首都開発の一大プロジェクトも計画されていた。そんな中、相馬と花咲の臨店先は、新宿支店。事務量がハンパではない繁忙店だ。そして、ここには伊丹清吾の御曹司が勤めていた。さあ、大事件の予感・・・
「主任検査官」
 行員数25名、中規模店舗である武蔵小杉支店に、金融庁の検査が入った。相馬と花咲が臨店する直前のことである。主任検査官は、青田という札付きのノンキャリアで、銀行業界からは恨まれていた。そして検査で重大なトラブルが発生。なんと銀行側が隠蔽した資料が立ちどころに発見されたのだ。資料を隠した南田博は、相馬と花咲の代々木支店時代の同僚だった。どうやら、支店内に密告者がいるらしいのだが・・・
「荒磯の子」
 伊丹百貨店の御曹司の一件で、立腹している真籐。蒲田支店の須賀支店長が、臨店チームを嵌めてやるという。相馬と花咲は、臨店ではなく応援として蒲田支店に入った。蒲田は不況の京浜工業地帯の管轄で、客層は複雑なうえ多忙、地獄の一丁目と呼ばれる難しい店である。さっそく、姑息な手段で潰されようとする臨店チームだったが、売られた喧嘩は買うが花咲の真骨頂。支店員全員に大事にされている会社社長の裏の顔を暴く。
「過払い」
 臨店先は、新宿支店。閉店後の照合で、百万円が合わない。どうやら、今年入行10年目になるベテランの中島聡子が過払いのミスをしでかしたらしい。彼女は仕事ぶりに定評もあり、営業課の行員からは一目置かれていた存在だったが、魔が差したのか? 百万円の過払いは支店にとって大事件である。さっそく過払いの相手先と思われるIT関係の会社社長に問い合わせると、余分な百万円は受け取っていないという。さあ、どうなる!?
「彼岸花」
 突然、真籐の元に届けられた彼岸花。真籐はそれを捨てろと言うが、彼の部下で若手最有力の児玉直樹は、その態度に不自然なものを感じる。送り主の名は、川野直秀。人事部に問い合わせると、彼は元企画部の行員で、早期退職制度によって退行していた。さらに調査を続けた児玉は、なんと川野が自殺していることを知って愕然とする。ならば、彼岸花を送ってきたのは誰だ・・・最年少執行役員である真籐の輝かしい経歴の裏に秘められた罪深き過去。
「不祥事」
 伊丹百貨店の全従業員9千人分の給与データが紛失した!
 これは東京第一銀行の信頼を根底から揺るがす、前代未聞の不祥事といってよかった。
 データが入ったMOディスクを伊丹側から持ち帰り、来客の合間に紛失したのは、本店第二営業部の坂田調査役。将来が嘱望されている30代前半のエリート行員である。魔が差したとしか言い様がない。
 一方、伊丹側は収まらない。東京第一銀行側の事務能力不足を指摘し、計画が進む巨大開発プロジェクトのパートナーに、ここにきて東京第一銀行のライバルである白水銀行が浮上する。
 銀行では急きょ、真籐企画部長を委員長に、各部署から選抜された調査委員会が組織され、紛失事件の真相を追う。
 ちなみに、委員会には、事務部から相馬と花咲が入っていた。嵐の予感・・・と驚愕のラスト!


 
 
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